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85-7

 ターナは熱さを感じない。

 いや、感じていたとしてもやけどしないのだ。

 なぜなら彼女は。


「お前は、機械人形だな」


 プリシラもマリアも、スセリすらも俺の発言に驚いている。

 ターナは微笑みをたたえている。

 そして観念したように言った。


「よく看破したわね。さすがは『稀代の魔術師』の後継者といったところかしら」

「お、おぬし、ターナではないのか……?」

「個人というのをどう定義するかによってその答えは変わるわ」


 ターナが自分の腕をつかむ。

 そして思い切りひねるとガチャリと音がしてひじから先が取れた。

 断面は完全に機械だった。


「オリジナルのターナははるか昔に死んだわ。私はオリジナルの意思をデータ化して移植した機械人形」

「なんと……」


 さすがのスセリもこの事実には動揺を隠せていない。

 ターナがたどり着いた不老不死の答えは自身の複製だったのだ。


「でも、私は自分のことを正真正銘ターナだと思っているわよ。過去の記憶も性格も思想もすべてコピーしたのだから。違うのは肉体が機械というだけ」


 その言葉が本心なのか俺は問う。


「『お前』はどう思っているんだ? オリジナルが託した無意味な復讐を。本当に自分はターナそのものだと思っているのか?」

「不愉快な質問」

「答えてくれ。ホワイトフェザーの人たちに親切にしたのは『お前』の意思じゃないのか?」


 目を伏せるターナ。

 沈黙が訪れる。

 俺たちは重い静寂に耐えて彼女の返事を待った。


「まあ、気が済んだのは否定しないわ」


 ターナは自嘲した。

 少し悲しい自嘲だった。



 王都で暴れまわっていた不死身の機械人形たちは暴走を止めた。

 ようやく騒動が収束し、王都に平和が戻ったのであった。

 俺とプリシラとマリアとスセリ、そしてターナは今、王城にいる。


「グレイス王家の過去を顧みて、その非道な行いを謝罪しよう」


 グレイス陛下がターナにそう述べた。


「ただし、これは王国としての正式な謝罪ではなく、あくまで私個人としての謝罪だ」


 今、陛下の頭に冠は載っていない。


「それで気が済むのなら今回の件は不問とする」

「ええ。わかりましたわ陛下。その謝罪を受け入れましょう」

「このことは決して他言せぬように。わかったな」


 過去のわだかまりにも一応の決着がついた。

 ターナはホワイトフェザーに帰り、今も村人たちと暮らしているだろう。


「むむむむ……」


 スセリは今、俺のベッドを占領してゲームに没頭している。


「ターナのやつ、またランキングを更新しおったな」


 ターナもどうやらスセリと同じゲームで遊んでいるらしい。


「まったく、暇人どもめ」


 端末をスリープモードにしてサイドテーブルに置く。


「……ターナはもう死んでおったのじゃな。己の恨みを分身に託して」


 今のターナは多少は報われたが、オリジナルの彼女は執念深い恨みを抱いたまま死んだ。

 めでたしめでたし――では終われない結末だったが、たぶんこれが俺たちにできるせいいっぱいのはず。

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