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ターナは熱さを感じない。
いや、感じていたとしてもやけどしないのだ。
なぜなら彼女は。
「お前は、機械人形だな」
プリシラもマリアも、スセリすらも俺の発言に驚いている。
ターナは微笑みをたたえている。
そして観念したように言った。
「よく看破したわね。さすがは『稀代の魔術師』の後継者といったところかしら」
「お、おぬし、ターナではないのか……?」
「個人というのをどう定義するかによってその答えは変わるわ」
ターナが自分の腕をつかむ。
そして思い切りひねるとガチャリと音がしてひじから先が取れた。
断面は完全に機械だった。
「オリジナルのターナははるか昔に死んだわ。私はオリジナルの意思をデータ化して移植した機械人形」
「なんと……」
さすがのスセリもこの事実には動揺を隠せていない。
ターナがたどり着いた不老不死の答えは自身の複製だったのだ。
「でも、私は自分のことを正真正銘ターナだと思っているわよ。過去の記憶も性格も思想もすべてコピーしたのだから。違うのは肉体が機械というだけ」
その言葉が本心なのか俺は問う。
「『お前』はどう思っているんだ? オリジナルが託した無意味な復讐を。本当に自分はターナそのものだと思っているのか?」
「不愉快な質問」
「答えてくれ。ホワイトフェザーの人たちに親切にしたのは『お前』の意思じゃないのか?」
目を伏せるターナ。
沈黙が訪れる。
俺たちは重い静寂に耐えて彼女の返事を待った。
「まあ、気が済んだのは否定しないわ」
ターナは自嘲した。
少し悲しい自嘲だった。
王都で暴れまわっていた不死身の機械人形たちは暴走を止めた。
ようやく騒動が収束し、王都に平和が戻ったのであった。
俺とプリシラとマリアとスセリ、そしてターナは今、王城にいる。
「グレイス王家の過去を顧みて、その非道な行いを謝罪しよう」
グレイス陛下がターナにそう述べた。
「ただし、これは王国としての正式な謝罪ではなく、あくまで私個人としての謝罪だ」
今、陛下の頭に冠は載っていない。
「それで気が済むのなら今回の件は不問とする」
「ええ。わかりましたわ陛下。その謝罪を受け入れましょう」
「このことは決して他言せぬように。わかったな」
過去のわだかまりにも一応の決着がついた。
ターナはホワイトフェザーに帰り、今も村人たちと暮らしているだろう。
「むむむむ……」
スセリは今、俺のベッドを占領してゲームに没頭している。
「ターナのやつ、またランキングを更新しおったな」
ターナもどうやらスセリと同じゲームで遊んでいるらしい。
「まったく、暇人どもめ」
端末をスリープモードにしてサイドテーブルに置く。
「……ターナはもう死んでおったのじゃな。己の恨みを分身に託して」
今のターナは多少は報われたが、オリジナルの彼女は執念深い恨みを抱いたまま死んだ。
めでたしめでたし――では終われない結末だったが、たぶんこれが俺たちにできるせいいっぱいのはず。




