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続いて奥の扉が開く。
そこから人型の機械人形が現れ、テーブルにお菓子とコーヒーカップを並べた。
プリシラとマリアはぽかんとしながらそのようすを見ていた。
「驚いたかしら?」
笑みを浮かべているターナ。
俺たちは彼女がどうしてこんなところにいるのかわからなかったので、どう返事してよいものか考えあぐねていた。
「私はね、こっちの時代では社長をやってるのよ」
「大それたままごとじゃのう」
「これが意外に楽しいのよ」
俺たちはこんなおしゃべりをしに来たわけじゃないのにな……。
とはいえ、ここでいきなり武器を構えるのも違う気がする。
「スセリ。無限の命を持っている私たちに不可欠なのは『退屈しのぎ』とは思わない?」
「それには同意するのじゃ」
お菓子の包みを開けて中身を食べるスセリ。
「この退屈しのぎに満足しているのなら、復讐などする必要なかろうに」
「いいえ。それは必要よ」
ターナはコーヒーを飲んでから続ける。
「罪の報いを受けるべき者たちがその報いを受けないのは納得いかないもの」
「おぬしの夫を苦しめた者たちはとうの昔に寿命で死んでおる。おぬしが傷つけているのは無関係の者たちじゃ」
「わたしは王国そのものに復讐しているの。罪深き過去を忘れて繁栄しているグレイス王国そのものが憎いのよ」
そう言ってから夜景に目をやる。
「警告はしたのよ。過去の過ちを認めて謝罪すれば危害は加えない、って」
グレイス陛下はその警告を無視したわけだ。
ダンッ、とプリシラがテーブルに手をついて勢いよく立つ。
「ターナさま! お気持ちは察しますが、みなさん困っているんです! 今すぐナノマシンを止めてください!」
「ナノマシンによる機械人形の暴走で王国には少なからぬ被害が出た。もうこのへんで手打ちにしてやらぬか」
「スセリも丸くなったわね。私の知ってる『稀代の魔術師』はもっと残酷だったのに」
「どこかの誰かさんの影響かもしれぬな」
ちらりとスセリが俺を見た。
「昔のままのあなたなら、こうして無防備な私を見た瞬間に心臓を魔法の矢で貫いたでしょうね」
「ワシを悪魔かなにかと思っておるのか……」
「あなたは私を許してくれたの? 私を恨んでいないの?」
「許しておらんが恨んでもおらん。もはや過去の話。どうでもよくなったのじゃ」
二人の不老不死が互いに抱いていた恨み。
なんなのだろう。
ターナがため息をつく。
「うらやましいわね。『過去』にできるほど新しい、大切なものを見つけられて」
「おぬしだって見つけられたのではないか? あの村で」




