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「い、異世界に来たんですの!?」
「いんや、ここは1000年前のワシらの世界じゃ」
「ターナさまが見せているまぼろしではありませんか?」
「その可能性もあるじゃろうが、こんな大それた幻影をつくるより、過去にさかのぼるほうがよほど楽じゃろう」
「時間を操るのはそんなにかんたんなのか?」
「かんたんというわけではないが、原理と理論さえ知っておれば人間でもじゅうぶん操れるのじゃ。あのセヴリーヌですら時間凍結の魔法を編み出したのじゃからな」
俺たちがくぐった扉は過去へと続く入り口だった。
信じられないが、目の前に広がる光景を目の当たりにすれば信じなくてはならない。
それにしても、夜だというのに明るい。
やたらと背の高い建物はどれも明かりが灯っている。
道に立てられた、赤と青と黄色に変わる妙な街灯は馬車の流れを制御しているのだろうか。赤色に変わると馬車がぴたりと停まる。
「人が大勢いますわね」
大勢の人間がいるのは王都を彷彿とさせる。
意外と服装は俺たちの時代とあまり変わらない。
「あー、喉が渇いたのじゃ」
「いきなりどうした」
スセリがてくてくと歩いていく。
それについていくと、四角い鉄の箱の前で立ち止まった。
箱のガラス越しに筒状の物体が陳列されている。
「ショーケースかしら」
「まあ、見ておれ」
スセリが箱に端末をかざす。ピッと音が鳴る。
箱にあったスイッチを押すと、ガコンッと箱の下部に筒状の物体が落ちてきた。
スセリは筒状の物体のふたを開けるとふちを口につけて傾けた。
「あー、おいしいのじゃー」
「えっ? 水筒だったのか?」
「この機械は自動販売機。そしてこの手にあるのが缶ジュースなのじゃ。おぬしらの分もおごってやるのじゃ」
スセリが再び端末を箱にかざす。
俺たちは彼女のまねをしてスイッチを押し、缶ジュースとやらを落とした。
「アッシュ。缶切りを召喚なさい」
「召使いか、俺は」
「缶きりなぞいらんのじゃ。開け方を教えてやるのじゃ」
スセリに教えられて缶ジュースのふたを開けた。
そしておそるおそる中身を飲む。
「ぶほっ」
ジュースが喉を通った瞬間、俺はむせかえった。
「なんかしゅわしゅわするぞ! これ!」
「アッシュは炭酸ジュースを選んだのじゃな」
「ど、毒じゃないよな……?」
「そんなわけなかろう」
聞くところによると、炭酸ジュースは若者に人気の飲み物らしい。
旧人類はこんなものを好んで飲んでいたのか……。
「甘くておいしいですー。わたしはリンゴジュースでしたー」
「まことに美味ですわ。ちなみにわたくしはコーヒーのようですわね」
「ハズレを引いたのは俺だけか」




