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84-1

 肝心のウールーが引く馬車は、いたるところの塗装がはげていて年季を感じる。

 走っている最中にバラバラになっても驚かない。


「御者はどこにいますの?」

「御者? そんなもんおらんよ。ウールーはかしこいからな。客を目的まで運べるし、自分で帰ってこれるんだ」

「すごいですっ」

「本当ですの?」

「客にウソ言ってどうする」


 あんまりかしこそうには見えないのだが、馬屋の主人が言うのならそうなのだろう。

 マリアはまだ信じられないのか不安なようす。


「それにしてもあんたたち、ホワイトフェザーに行くなんて珍しいな」


 ホワイトフェーザという名前の村がターナの研究所がある村だ。


「ま、俺は運賃さえ払ってくれりゃなんだっていいがな」

「いくらですか?」

「これだけだよ」


 主人が提示した額の運賃を支払う。

 結構遠いのに意外と安い。

 辻馬車ならもっと高くつくだろう。


「まいどあり」


 運賃を握った手をポケットにつっこんだ後、主人はウールーの隣に立つ。


「ホワイトフェザーの村まで行くんだぞ。わかったな」


 ウールーは無言。

 というか、微動だにしない。

 生きているのか怪しいくらい無反応。


「よし、出発できるぞ」

「い、今ので本当にだいじょうぶなんですか……?」

「安心しろ。こいつが客を行き先まで運ばなかったことは今まで一度もない」


 俺まで心配になってきた。

 しかも、馬車の中に入るとギィと床がきしんだ。

 座席も固い。


「行ってこい!」


 主人が叫ぶと、ウールーは俺たちの乗る馬車を引っ張ってゆっくりと走り出した。

 この馬車には車輪の代わりに雪上を滑るための板がついている。馬車というよりソリに近い。

 雪国ならではだ。


 馬車の中はかなり揺れる。

 固い座席のせいで尻がいたい。

 乗り心地はすこぶる悪かった。


「あの生き物、本当にホワイトフェザーに向かっているのかしら」

「馬屋の主人の言葉を信じよう」

「あー、ガタガタ揺れるのじゃー」


 窓から外の景色を眺める。

 見渡す限り真っ白な雪原が広がっている。

 最初はその美しい景色に見入っていたが、もうとっくに飽きてしまった。


 と、そのとき、馬車が思いっきり縦に揺れた。

 全員の身体がふわっと浮いてどしんと落ちる。

 石に乗り上げたのだろう。


「プリシラ、けがはないか?」

「おしりがちょっと痛いです」


 えへへ、とプリシラがはにかんだ。

 さて、もう一人のお嬢さまも気遣ってやらないと機嫌を損ねるな。


「マリ……ア……?」


 横を向くと、マリアは顔面蒼白でハンカチを口に当てていた。

 馬車酔いか!


「お、おい、マリア!」

「うえっぷ……」

「寒がったり吐きそうになったり忙しい娘なのじゃ」


 俺はマリアの背中をさする。


「あー、そんなことしても無駄じゃ。いっぺん吐けば楽になるのじゃ」


 スセリが窓を開ける。


「ほれ、吐くのじゃ」

「……」


 マリアは無言で首を横に振って抵抗の意思を示す。

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