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肝心のウールーが引く馬車は、いたるところの塗装がはげていて年季を感じる。
走っている最中にバラバラになっても驚かない。
「御者はどこにいますの?」
「御者? そんなもんおらんよ。ウールーはかしこいからな。客を目的まで運べるし、自分で帰ってこれるんだ」
「すごいですっ」
「本当ですの?」
「客にウソ言ってどうする」
あんまりかしこそうには見えないのだが、馬屋の主人が言うのならそうなのだろう。
マリアはまだ信じられないのか不安なようす。
「それにしてもあんたたち、ホワイトフェザーに行くなんて珍しいな」
ホワイトフェーザという名前の村がターナの研究所がある村だ。
「ま、俺は運賃さえ払ってくれりゃなんだっていいがな」
「いくらですか?」
「これだけだよ」
主人が提示した額の運賃を支払う。
結構遠いのに意外と安い。
辻馬車ならもっと高くつくだろう。
「まいどあり」
運賃を握った手をポケットにつっこんだ後、主人はウールーの隣に立つ。
「ホワイトフェザーの村まで行くんだぞ。わかったな」
ウールーは無言。
というか、微動だにしない。
生きているのか怪しいくらい無反応。
「よし、出発できるぞ」
「い、今ので本当にだいじょうぶなんですか……?」
「安心しろ。こいつが客を行き先まで運ばなかったことは今まで一度もない」
俺まで心配になってきた。
しかも、馬車の中に入るとギィと床がきしんだ。
座席も固い。
「行ってこい!」
主人が叫ぶと、ウールーは俺たちの乗る馬車を引っ張ってゆっくりと走り出した。
この馬車には車輪の代わりに雪上を滑るための板がついている。馬車というよりソリに近い。
雪国ならではだ。
馬車の中はかなり揺れる。
固い座席のせいで尻がいたい。
乗り心地はすこぶる悪かった。
「あの生き物、本当にホワイトフェザーに向かっているのかしら」
「馬屋の主人の言葉を信じよう」
「あー、ガタガタ揺れるのじゃー」
窓から外の景色を眺める。
見渡す限り真っ白な雪原が広がっている。
最初はその美しい景色に見入っていたが、もうとっくに飽きてしまった。
と、そのとき、馬車が思いっきり縦に揺れた。
全員の身体がふわっと浮いてどしんと落ちる。
石に乗り上げたのだろう。
「プリシラ、けがはないか?」
「おしりがちょっと痛いです」
えへへ、とプリシラがはにかんだ。
さて、もう一人のお嬢さまも気遣ってやらないと機嫌を損ねるな。
「マリ……ア……?」
横を向くと、マリアは顔面蒼白でハンカチを口に当てていた。
馬車酔いか!
「お、おい、マリア!」
「うえっぷ……」
「寒がったり吐きそうになったり忙しい娘なのじゃ」
俺はマリアの背中をさする。
「あー、そんなことしても無駄じゃ。いっぺん吐けば楽になるのじゃ」
スセリが窓を開ける。
「ほれ、吐くのじゃ」
「……」
マリアは無言で首を横に振って抵抗の意思を示す。




