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「わたくし、未成年ですの……」
「そんなこと言っておる場合か。仕方ないのう」
スセリが胸元に手を入れて取り出してきたのは白くて四角い物体。角が丸みを帯びている。
古代遺跡で見るような機械だ。
スセリはそれを俺とマリアに手渡す。
スセリからそれをもらって驚いた。
あったかい。
手のひらに載った白い物体は熱を帯びていた。
「これを服の内側に入れるがよい」
「これは……! あったかいですわ!」
言われたとおり服の内側に入れると、みるみる身体が温まった。
マリアも身体の震えが止まっている。
こんな便利な道具があるなんて。
考えみると、古代文明は科学の発達した文明。
寒さを克服する手段があってもおかしくない。むしろ当然あるはずだったのだ。
「感謝いたしますわ、スセリさま」
「ワシをあがめるがよい」
それにしてもスセリ、本当に古代文明かぶれだな。
端末も使いこなしているし。
「スセリはどうして古代文明に詳しいいんだ?」
「研究したからに決まっておろう」
「そうじゃなくて、古代文明にこだわる理由だよ」
「ああ、そういうことか。簡単なのじゃ。科学が発達した古代文明の道具を、魔法が発達した現代のワシらが手にすれば最強ではないか」
「なるほど」
「ワシは科学と魔法、両方を使いこなすのじゃ」
それが『稀代の魔術師』と呼ばれる所以であった。
失礼だが、初めて彼女を尊敬できた。
「不老不死に関しても古代文明の技術を利用していますの?」
「察しのとおり。古代文明も永遠の命について研究しておって、ワシはそこから着想を得て魂を移す魔法を編み出したのじゃ」
死から免れようとしていたのは古代人も同じだったというわけだな。
そして列車が駅に停まり、俺たちはそこで降りた。
新雪を踏み、足跡をつける。
ノースヴェール地方の大地を踏みしめる。
ターナの研究所があるという村はここからさらに北にある。
ただ、この雪が降りしきる大地を徒歩で移動するのは無謀もはなはだしい。
そういうわけで、あらかじめギルド長のキルステンさんがある手配をしてくれた。
俺たち四人は『馬屋』へと訪れた。
「牛ですーっ」
「牛……ですの?」
「馬屋なのじゃから馬じゃろ」
「これを馬と言い張るのか?」
小屋の中で飼われている動物は明らかに牛でも馬でもない。
どちらかというと牛に近いが、その全身は厚い体毛で覆われている。巨大な毛玉のような外見だ。
顔も体毛に覆われていて目が隠れている。
「お前さんたち、ウールーがそんなに珍しいのか?」
馬屋の主人がウールーと呼ばれたその動物の頭をなでる。
ウールーは微動だにしない。
主人の話によると、馬の代わりにこいつが馬車を引っ張るらしい。




