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それからも列車は太陽が出ているうちはガタンゴトンと揺れながら走り、陽が沈むころになると駅に停まって乗客を降ろし、眠りにつくのであった。
俺とスセリとプリシラとマリアは列車の旅路でいろんな町を見た。
栄えている町、さびれている町、旅行者を歓迎する町、よそ者を嫌う町……。どの町もそれぞれ個性があって俺たちを飽きさせなかった。
駅が近づくたび、今度はどんな町なのか思いを馳せる。
課せられた使命は深刻だが、だからとって旅を楽しんではいけないなんてことはないはず。
と言い聞かせて、列車での旅を楽しんだ。
「……」
静かな車内。
正面に座るプリシラとマリアは互いに寄り添って寝息を立てている。
俺の隣にいるスセリは、いつになく真剣な面持ちで窓枠に肘をついて景色を眺めていた。
「考えごとか?」
「ターナのことを考えておったのじゃ」
スセリが視線だけを動かして俺を見る。
「思い返すと、ワシはずいぶんと無神経だったかもしれん」
「そうだな。スセリはいつも無神経だな」
「失礼な子孫じゃ」
なんて冗談を言い合うと、スセリは薄く笑った。
それからすぐ、まじめな顔に戻る。
「ワシは夫を失ったターナをはげまそうと努力していたが、最愛の夫がいるワシが同情したところで、かえってあやつの神経を逆なでするだけだったのじゃろうな」
「そんなことない。スセリの気持ちは伝わったはずだ」
「ならばなぜあやつは破滅の願望を抱いておるのじゃ」
俺は言葉に詰まる。
「追いつめられた人間がすがるのは救済ではなく破滅。すべてを覆す混沌を望むようになるのじゃ」
「自分以外のみんなも不幸になってしまえ、って思っちゃうのか」
「そうなった人間を救う手立てはもはやない。ターナは手遅れなのじゃ」
「それは……、つらいな」
ターナが混沌を望むようになったのは、理不尽な仕打ちを受けたから。
そんな彼女と戦わなくてはならない。
「キルステンさんが言っていたように、ターナを見逃したらどうだ。もちろん、機械人形のナノマシンを止めさせてからだけど」
「いや、ターナは殺すのじゃ」
はっきりと『殺す』と言われてぞくっとする。
「殺す気で挑まねば死ぬのじゃ。『稀代の魔術師』に匹敵する『冬の魔女』に手加減して勝てるとうぬぼれているのなら話は別じゃがな」
手加減どころか、本気になったとしてもスセリに勝てるかどうかは怪しい。
「ワシはアッシュ、おぬしを好いておる。家族としても仲間としても、恋心を抱く相手としても。プリシラもマリアも家族のようなものじゃ。失いたくはない」
スセリが俺に身体を寄せる。
「だからワシは選んだのじゃ。かつての同胞ではなく、今の仲間を」




