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それから俺たち四人は三日かけてアークトゥルスの不毛の大地を歩いた。
乾いた風が吹きすさぶ荒野を黙々と進む。
灰色の土地は枯れ切っていて、村の一つも見当たらない。
大陸の北と南をつなぐ街道が一本、延々と伸びるばかり。
俺たちは自然と口数が少なくなっていった。
ときおり旅人や商人とすれ違うことがあり、そういうとき、少しほっとした。さみしい旅路に潤いを得られて。彼らと雑談したり情報交換したり、水や食料を買ったりした。
三日目になると、風景に海岸が加わった。
灰色ばかりだった景色に現れた、鮮やかな青。
俺たちは少し寄り道をして、海辺で遊んだ。
プリシラは裸足で波打ち際をむじゃきに駆け回り、ディアは貝殻を拾い集め、スセリは地面を掘ってヤドカリを捕まえて俺に見せてきた。
そんな旅路の果てにようやくたどり着いた。
アークトゥルス地方で最も栄える都市――ケルタスへと。
「あわわわ……。人がいっぱいです……」
プリシラは口をあんぐりと開けて立ち呆けていた。
俺もたぶん、同じ感じだろう。
俺たちはあ然としていた。
大都会だ、ここは。
街の大通りは目が回るほどの人々が行き交っている。
性別、年齢、背丈、服装。それに髪の色や肌の色まで千差万別。
溢れかえる数多の人間。
まるで祭りのような賑わい。
スピカの街がどれほど田舎だったかを思い知らされた。
俺とプリシラは大都会の雑踏と喧騒に呑み込まれそうだった。
「アークトゥルス地方の大地は決して豊かではありません。灰色の荒野、岩肌がむき出しの鋭い山々……。自然豊かな土地はわずかに限られていて、そこに街が根差したのがこのケルタスなのです」
ディアがそう俺たちに教えてくれた。
アークトゥルス中の人間がこの街に集まっているのなら、これだけの規模になるのも納得だ。
「とりあえず宿をさがすか」
だが、こんな大きな街のどこに宿屋があるのか見当もつかない。
やみくもに歩けば間違いなく迷子になる。
どうすればいいのか……。
「宿でしたら、おそらく西区にあるかと」
俺が困っているのを察したディアが助言をくれた。
ディアによると、ケルタスの街は大きく四つの区画に分かれているという。
繁華街のある南区。
港がある西区。
上流階級層の居住区である北区。
そして中流、下流階級の居住区である東区。
「港のある西区は海の玄関口です。船旅をしてきた旅行者や船乗り、冒険者向けの施設が多くあります。冒険者ギルドもそこにあると聞いたことがあります」
「なるほど、そうか。この街に関してはディアにまかせればいいのか」
「えっ!?」
「道案内、よろしくお願いしますっ。ディアさまっ」
「わたくしですか!?」
驚いたディアが自分を指さす。
それから困ったようすで視線をさまよわせる。
「あ、あの……。わ、わたくしもそこまで詳しくはないのです。西区にも実際に行ったことはありませんので……」
「それでも俺たちよりかは詳しいだろ?」
「頼りにしていますよっ。ディアさまっ」
「は、はい……」
ディアは緊張した面持ちでうなずいた。
――ちなみにじゃが、昔は西区だけしかなかったのじゃよ。
「西区から徐々に発展していって、今の規模になったと教わりました」
――そのとおりなのじゃ。




