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9-1

 それから俺たち四人は三日かけてアークトゥルスの不毛の大地を歩いた。

 乾いた風が吹きすさぶ荒野を黙々と進む。

 灰色の土地は枯れ切っていて、村の一つも見当たらない。

 大陸の北と南をつなぐ街道が一本、延々と伸びるばかり。

 俺たちは自然と口数が少なくなっていった。


 ときおり旅人や商人とすれ違うことがあり、そういうとき、少しほっとした。さみしい旅路に潤いを得られて。彼らと雑談したり情報交換したり、水や食料を買ったりした。


 三日目になると、風景に海岸が加わった。

 灰色ばかりだった景色に現れた、鮮やかな青。

 俺たちは少し寄り道をして、海辺で遊んだ。

 プリシラは裸足で波打ち際をむじゃきに駆け回り、ディアは貝殻を拾い集め、スセリは地面を掘ってヤドカリを捕まえて俺に見せてきた。



 そんな旅路の果てにようやくたどり着いた。

 アークトゥルス地方で最も栄える都市――ケルタスへと。


「あわわわ……。人がいっぱいです……」


 プリシラは口をあんぐりと開けて立ち呆けていた。

 俺もたぶん、同じ感じだろう。

 俺たちはあ然としていた。


 大都会だ、ここは。


 街の大通りは目が回るほどの人々が行き交っている。

 性別、年齢、背丈、服装。それに髪の色や肌の色まで千差万別。

 溢れかえる数多の人間。

 まるで祭りのような賑わい。

 スピカの街がどれほど田舎だったかを思い知らされた。

 俺とプリシラは大都会の雑踏と喧騒に呑み込まれそうだった。


「アークトゥルス地方の大地は決して豊かではありません。灰色の荒野、岩肌がむき出しの鋭い山々……。自然豊かな土地はわずかに限られていて、そこに街が根差したのがこのケルタスなのです」


 ディアがそう俺たちに教えてくれた。

 アークトゥルス中の人間がこの街に集まっているのなら、これだけの規模になるのも納得だ。


「とりあえず宿をさがすか」


 だが、こんな大きな街のどこに宿屋があるのか見当もつかない。

 やみくもに歩けば間違いなく迷子になる。

 どうすればいいのか……。


「宿でしたら、おそらく西区にあるかと」


 俺が困っているのを察したディアが助言をくれた。

 ディアによると、ケルタスの街は大きく四つの区画に分かれているという。

 繁華街のある南区。

 港がある西区。

 上流階級層の居住区である北区。

 そして中流、下流階級の居住区である東区。


「港のある西区は海の玄関口です。船旅をしてきた旅行者や船乗り、冒険者向けの施設が多くあります。冒険者ギルドもそこにあると聞いたことがあります」

「なるほど、そうか。この街に関してはディアにまかせればいいのか」

「えっ!?」

「道案内、よろしくお願いしますっ。ディアさまっ」

「わたくしですか!?」


 驚いたディアが自分を指さす。

 それから困ったようすで視線をさまよわせる。


「あ、あの……。わ、わたくしもそこまで詳しくはないのです。西区にも実際に行ったことはありませんので……」

「それでも俺たちよりかは詳しいだろ?」

「頼りにしていますよっ。ディアさまっ」

「は、はい……」


 ディアは緊張した面持ちでうなずいた。


 ――ちなみにじゃが、昔は西区だけしかなかったのじゃよ。


「西区から徐々に発展していって、今の規模になったと教わりました」


 ――そのとおりなのじゃ。

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