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「いけませんわ!」
「ひえっ」
「なっ、なんじゃあ!?」
いきなりマリアが大声出したので三人とも驚く。
気持ちよく寝ていたスセリがなにごとかと目を覚ました。
「いけませんわよ、アッシュ」
マリアが真剣な表情で再び言う。
なにがいけないのかわからず、俺とプリシラは顔を見合わせる。
びっしと俺の鼻先を指でさしてくる。
「わたくしの夫になろう者が、そんな弱気な考えではいけないと言っていますの」
「夫になるつもりは今のところ――」
「つべこべ言わずにカードを引きますのよ!」
扇状に広げた複数のカードをマリアがぐいっと出してきた。
どうやら占わなければならないらしい。
しょせん素人の占い。
意地になって拒否する理由もないので、俺はおとなしくカードを引くことにした。
マリアが差しだしてきた5枚のカード。
いずれも裏面を向いていてカードの絵はわからない。
「悩まずに直感で選んでくださいまし」
そう言われたので俺は深く考えず真ん中のカードを選んだ。
マリアがそのカードを空いた手で引く。
「ド、ドキドキしますね。アッシュさま」
プリシラは緊張している。
真逆にスセリはあくびしている。
「アッシュの引いたカードは――」
マリアがそのカードの表面を見た瞬間、目をまんまるに見開いた。
尋常じゃなく驚いている。
しかも、驚愕の中に困惑の感情も見られる。
ただの不吉な結果ではなさそうだ。
マリアは「どういうことですの……」としきりに首をかしげていた。
「もったいぶってないで教えてくれよ。占いの結果はどうなんだ?」
「それが」
「それが?」
「わかりませんの」
思いがけぬ答えだった。
わからない?
占い方がわからない――という意味ではなさそうだ。
「マリアさま。アッシュさまはどのカードを引かれたのですか?」
「これですわ」
マリアが俺たちに表面を見せる。
そこに描かれていたのは――銀色の長い髪が美しい乙女。
素人目には良い運勢に感じられる絵柄だ。
「このカードはなにを表してるんだ?」
「だから、言いましたでしょう。わかりませんの。こんなカードわたくし、持っていませんの」
「知らないカードが紛れ込んでいたのですか!?」
「そうですわ」
どうりで困惑の表情を浮かべるわけだ。
占いの手引書にもこんな絵柄のカードは載っていないという。
俺が引いたのは正体不明のカードだった。
銀色の乙女のカードはなにを暗示しているのだろう。
神秘的な絵柄のこれからは、不幸な印象は伝わってこないが。
「思いがけぬ出来事が起こる――ということにするのじゃ」
スセリが言った。
「それにしてもきれいなカードじゃの。幸先は良さそうなのじゃ」




