82-6
スセリの真剣な横顔。
彼女は続きの言葉をなかなか出さない。
いろいろと因縁があるのはわかる。
だから俺は彼女が言い出すのを辛抱強く待っていた。
言いたくないならそれでもいい。
「一時期はワシとセヴリーヌ、それとあやつの三人で共同して不老不死の研究をしておった。今では信じられんが、変人と言われていた者同士、それなりに仲良くしておったのじゃ」
その言いかたから察するに、どこかで不和が生じたようだ。
セヴリーヌもスセリを嫌っていたし。
「研究の半ば、最愛の夫を奪われた失意から、セヴリーヌは不老不死に執着しなくなった。現世に留まる意味を見失ったのじゃろうな」
「理不尽に旦那さんを殺されて……。かわいそうだな」
俺もプリシラやマリア、スセリを殺されたりしたら、発狂して自我が崩壊するだろう。
想像しただけでぞっとする。
「昔はワシにも人の心というものがあったから、あやつを慰めてやっていたのじゃが、その言葉も心も届かなかったのじゃ」
ある日、ターナはスセリたちの前から姿を消した。
人間というものに嫌気がさした――という旨の手紙を残して。
スセリは、ターナが人里離れた場所でひっそりと暮らし、失意のうちに死んだとばかり思っていた。
ところが実際は違った。
ターナは若返り、そしておそらく不老の身となって俺たちの前に現れた。
「あやつらとの約束を果たすときが来るとはな」
「約束?」
「定められた寿命を超える歳月を生きて、そのせいで心が狂ってしまったら、そのときは命を奪う――という約束なのじゃ」
俺が目にした『冬の魔女』は復讐に囚われて狂っていた。
「キルステンはああ言っておったが、ワシはターナを殺すのじゃ」
はっきりとスセリは言った。
「理性を欠いた人間など、もはや生ける屍なのじゃ」
「改心させる余地はあるんじゃないか?」
「本気で殺しにくる相手に手心を加えるのがどれほど危険か、幾多の戦いを経験したおぬしなら知っておるじゃろ」
スセリは窓から満月を見上げる。
「ワシは『冬の魔女』ターナを殺す」
それから俺のほうを向く。
真剣な面持ちから一転して、いつものおちゃらけた表情に戻った。
「それはそれとして、ノースヴェールには温泉がいくつもあるのじゃ。今から楽しみじゃのう」
「旅行じゃないんだぞ」
「楽しめるなら楽しまねば損なのじゃ。特におぬしらの命は有限なのじゃ。余すところなく楽しまなくてはの。キルステンからたっぷりと旅費をせしめてノースヴェール旅行を堪能するのじゃ。のーじゃっじゃっじゃっ」
うっかり聞きそびれてしまった。
ターナの言う『互いの恨み』とはなんだったのだろう。
彼女の言葉が正しいとすると、スセリもターナに恨みがある。




