82-5
「おかりなさいませ、アッシュさまにスセリさまっ」
プリシラが玄関で出迎えてくれた。
彼女の背後からいいにおいが漂ってきている。
ホワイトソースの甘くて濃厚なかおりだ。
今日の料理当番はマリアだったな。
プリシラに負けず彼女も料理の腕前は確かだから期待できる。
「さあ、召し上がれ」
そして夕食の時刻。
俺とプシリラ、スセリ、マリアの四人で食卓を囲った。
マリアが後ろ手でエプロンのひもをほどいて脱いでから席に着く。
おいしそうなシチューだ。
真っ白なシチューにオレンジ色のニンジンと緑色のブロッコリーが彩られている。
見た目の時点ですでにおいしそうだ。
スプーンですくって口に含む。
コクのある味わいと甘みが口の中に広がっていく。タマネギのやわらかい歯ざわりもたまらない。
期待を裏切らない味だ。
正面に座るマリアと目が合う。
彼女は俺の表情を見て自信ありげで得意げな笑みを浮かべた。
そしてわざとらしい口調で言う。
「こんな料理をつくれる女性を妻に迎えられる人は、さぞかししあわせなのでしょうね。アッシュ。そうは思いませんこと?」
なんかそのセリフ、ついさっきも聞いた気がする。
シチューの次はパンを口にする。
プリシラがいっしょうけんめい生地から作ったパンだ。
外はカリカリ。中はふんわりした食感。
こちらもとてもおいしい。
「わ、わたし、アッシュさまのお嫁さんになれたのなら、毎日パンを焼いてさしあげますっ」
「ありがとう、プリシラ」
「そ、それは結婚していただけるという意味ですね!?」
ぐいっと顔を近づけてくるプリシラ。
三人ともやたらと俺に言質を求めてくる……。
「一日で三人の女性に愛の告白をされるとは、やりおるのう」
スセリが俺のほっぺたをつんつんつついてからかってきた。
食事を終え、俺とスセリは食器洗いをする。
「第一夫人のワシがなにゆえ皿洗いを……」
「いつから第一夫人になった」
スセリはぶつくさ文句を言いながら皿を水で洗っていた。
プリシラとマリアは入浴中。
二人で風呂に入るなんて、やはり仲がいい。
「あー、立ち仕事をしていたら腰が痛くなってきたのじゃ。歳じゃのう」
「身体は子供だろ」
「年寄りをいたわらんかい」
都合よく大人になったり子供になったり……。
「……なあ、スセリ。『冬の魔女』ターナとはどんな関係なんだ?」
ターナも不老不死の研究をしていたと言っていた。
『稀代の魔術師』に伝えてちょうだい。今こそ互いの恨みを晴らすべき――って。
ターナはそう口にした。
セヴリーヌと同様に、彼女とは浅からぬ関係があるのは明らかだ。
「……赤の他人とは言わんがの」




