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「アッシュ好みの服を着てやったのじゃ」
「そうだな。俺はこういう落ち着いた衣装が好みだな」
「似合っておるじゃろう?」
「スセリの意外性が見れた、って感じだ」
「のじゃじゃじゃっ。ワシは昔は『おしとやかな少女』と言われとったのじゃぞ」
スセリが手招きする。
二人で鏡の前に立つ。
彼女は俺にぴたりと寄り添った。
うっとりとしている。
しあわせそうな表情だ。
俺とこうしていられるのがそんなにうれしいなんて、スセリ相手でも照れてしまう。
「あー、こんな美しい少女を妻に迎えられる男は、大陸一の果報者じゃろうなー」
「そうかもしれない」
「ま、まじめな口調で言うでない……」
「正直な感想を言ったんだ」
「の、のじゃ……」
スセリが恥ずかしがるなんて珍しい。
いいものを見れた。
次にスセリは男性用の服の売り場に行った。
俺の服も見繕ってくれるらしい。
俺はいらないと断ったのだが、断固として買うつもりらしい。
「おぬしは地味な服ばかり着ておるからの。若いのじゃから流行りの服を着んともったいないのじゃ」
「流行とかそういうのは興味ない」
「ほれ、これとかどうじゃ」
スセリが選んだ服を持って鏡の前に立つ。
都会の若い男性が着ている派手な服だ。
俺とスセリは顔を見合わせて苦笑する。
「ぜんぜんこれっぽっちも似合っておらんのう」
「だな」
服屋の次はアンティークショップ。
あえて古めかしくしている内装の店には、年代物の家具や小物が無秩序に並べられていた。
こういう店に入ったのは初めてだから新鮮だ。
「忘れ去られてゆくはずだった者たちの居場所なのじゃ」
ウサギの置物を眺めながらスセリが言う。
ここに置かれているのは、本来の役目を果たした道具たち。
彼らにはアンティークという新たな名を与えられてここにいる。
がらくたとして捨てられるものたちと彼らの違いはなんだろう。
理由などない、そういう運命だったのかもしれない。
外の喧騒が遠く聞こえる。
古びたものたちが暮らすこの店はどこか異世界めいた、不思議な空間に感じられた。
「これとか雰囲気あるのじゃ」
スセリが手にしているのはランプ。
金属の黒ずんだ部分が、いかにもな古さをかもしている。
「ワシの部屋に置くにふさわしいのじゃ」
「買ってやるよ」
「ほう、太っ腹じゃの」
「そのほうが『買ってもらった』って思い出ができるからいいだろ?」
ぽかんとするスセリ。
しまった。ちょっとクサすぎるセリフだったか。
気まずくなって頭をかいていると、スセリが目を細めて笑った。
「ふふっ。そうじゃな」
続けてこう言う。
「プリシラとマリアに自慢するのじゃ」
「そ、それは勘弁してくれ」
「ほー、どうしてじゃ? まるでワシとのデートが後ろめたいものであるかのような物言いじゃの」
「わかるだろ。そうした後の展開が」
まあ、わかるから言ってるんだろうな。
そうして街で遊んだ俺たちは『シア荘』に帰宅した。
……えーっと、当初の目的はなんだったっけ。




