表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

572/842

82-4

「アッシュ好みの服を着てやったのじゃ」

「そうだな。俺はこういう落ち着いた衣装が好みだな」

「似合っておるじゃろう?」

「スセリの意外性が見れた、って感じだ」

「のじゃじゃじゃっ。ワシは昔は『おしとやかな少女』と言われとったのじゃぞ」


 スセリが手招きする。

 二人で鏡の前に立つ。

 彼女は俺にぴたりと寄り添った。


 うっとりとしている。

 しあわせそうな表情だ。

 俺とこうしていられるのがそんなにうれしいなんて、スセリ相手でも照れてしまう。


「あー、こんな美しい少女を妻に迎えられる男は、大陸一の果報者じゃろうなー」

「そうかもしれない」

「ま、まじめな口調で言うでない……」

「正直な感想を言ったんだ」

「の、のじゃ……」


 スセリが恥ずかしがるなんて珍しい。

 いいものを見れた。


 次にスセリは男性用の服の売り場に行った。

 俺の服も見繕ってくれるらしい。

 俺はいらないと断ったのだが、断固として買うつもりらしい。


「おぬしは地味な服ばかり着ておるからの。若いのじゃから流行りの服を着んともったいないのじゃ」

「流行とかそういうのは興味ない」

「ほれ、これとかどうじゃ」


 スセリが選んだ服を持って鏡の前に立つ。

 都会の若い男性が着ている派手な服だ。

 俺とスセリは顔を見合わせて苦笑する。


「ぜんぜんこれっぽっちも似合っておらんのう」

「だな」


 服屋の次はアンティークショップ。

 あえて古めかしくしている内装の店には、年代物の家具や小物が無秩序に並べられていた。

 こういう店に入ったのは初めてだから新鮮だ。


「忘れ去られてゆくはずだった者たちの居場所なのじゃ」


 ウサギの置物を眺めながらスセリが言う。

 ここに置かれているのは、本来の役目を果たした道具たち。


 彼らにはアンティークという新たな名を与えられてここにいる。

 がらくたとして捨てられるものたちと彼らの違いはなんだろう。

 理由などない、そういう運命だったのかもしれない。


 外の喧騒が遠く聞こえる。

 古びたものたちが暮らすこの店はどこか異世界めいた、不思議な空間に感じられた。


「これとか雰囲気あるのじゃ」


 スセリが手にしているのはランプ。

 金属の黒ずんだ部分が、いかにもな古さをかもしている。


「ワシの部屋に置くにふさわしいのじゃ」

「買ってやるよ」

「ほう、太っ腹じゃの」

「そのほうが『買ってもらった』って思い出ができるからいいだろ?」


 ぽかんとするスセリ。

 しまった。ちょっとクサすぎるセリフだったか。

 気まずくなって頭をかいていると、スセリが目を細めて笑った。


「ふふっ。そうじゃな」


 続けてこう言う。


「プリシラとマリアに自慢するのじゃ」

「そ、それは勘弁してくれ」

「ほー、どうしてじゃ? まるでワシとのデートが後ろめたいものであるかのような物言いじゃの」

「わかるだろ。そうした後の展開が」


 まあ、わかるから言ってるんだろうな。



 そうして街で遊んだ俺たちは『シア荘』に帰宅した。

 ……えーっと、当初の目的はなんだったっけ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ