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「同情すべき事情は悪事を許していい理由にはならない。悪行というものは千の善行すら台無しにするのだ」
「あうう……」
うなだれるプリシラ。
プリシラはやさしいな。敵対した相手すら気にかけるなんて。
「だが」
キルステンさんも同じことを思ったのかもしれない。
彼はこう付け加えた。
「はるか遠くのノースヴェールでなにが起ころうと、冒険者ギルドに知るすべはない。お前たちが『冬の魔女』をこらしめてナノマシンを停止させたものの、逃げられてしまったとしても、だ」
「え、それって……」
プリシラはきょとんとする。
それからマリアのウィンクを見てキルステンさんの言葉の真意を理解した彼女は、ぺこりとおじぎした。
「ありがとうございますっ。キルステンさまはやはり、とても思いやりのある方ですっ」
「多かれ少なかれ、思いやりなど誰もが持っている。人々はそれをありがたがっているが、実際は捨てて構わん程度の価値しかない」
「アッシュよ。これが本当のカッコウのつけたかなのじゃ」
キルステンさんが俺たちに命じる。
「アッシュ・ランフォードとその仲間たちよ。ノースヴェールへ赴いて『冬の魔女』ターナを討伐し、機械人形の暴走を止めるのだ」
こうして俺たちはノースヴェールへ旅立つことになったのであった。
翌日、旅の支度をするために繁華街に赴いた――はずが。
「似合っておるか?」
なぜかスセリと二人で服屋にいる。
若者たちが着る、流行の衣装が取り揃えられたおしゃれな店だ。
旅の道具が売っている場所ではないな、といぶかっていたら、スセリは俺をむりやりこの店に連れてきたのだった。
店内には衣装が山ほど並べられている。
スセリはそれをひとつひとつ眺めていき、気に入ったものを発見すると手に取って身体に重ね、鏡の前に立つのを繰り返している。
「似合ってるかと質問してるじゃろう」
「……普通だ」
「すなおに『かわいいぜ、俺のスセリ』と言えんのかのう」
スセリはいつも以上にうきうきしていた。
他人からは年相応の少女にしか見えないだろう。
果たして俺たちは兄妹か恋人同士か。
「ここは大胆に、思いっきり肌を出した服にしてみるかの」
彼女は確かに「道具を買いに行くのじゃ」と言ったんだがな……。
「せっかく年頃の少女の肉体に魂を移したのじゃ。めいっぱい堪能せんとのう」
「そんな薄着で北の辺境に行くつもりか?」
「アッシュは露出の多い服は好みではないのか」
「ま、まあ、目のやり場に困る格好はちょっとな――って、そういう意味じゃない」
スセリは俺を無視して服を何着か持って試着室に入る。
閉ざされたカーテンがしばらくして開いた。
「どうじゃ?」
着替えたスセリは図書館が似合う文学少女になっていた。
スカートがひざより下まで伸びた、茶色の落ち着いた服。
素朴だけれど流行の最先端を行く店だけあり、おしゃれを損なってはいない。




