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「スセリさま。『冬の魔女』ターナが悪さをしている理由に心当たりはあるんですか?」
「あるのじゃ」
スセリは即答した。
「あやつの最愛の夫は王国に拷問にかけられて殺されたのじゃ」
「ご、拷問!」
「ひどいですわ……」
当時、王国は圧政を敷いており、国民は不満を募らせていた。
王国を打倒する計画を立てていた国民も多く、革命の機運が高まっていた。
ゆえに王国は騎士団を使って革命の疑いがある者を捕らえて処刑していた。
ターナの夫も革命軍の一員の疑いがかけられて騎士団に拘束された。
彼女のもとに帰ってきたときの夫は、もはや語れぬありさまであった。
そうスセリは説明した。
ターナは王国に恨みを抱いている。
だから機械人形を暴走させて王都を混乱に陥れようと企んでいるのだろう。
彼女には同情する。とはいえ、こんなことをするのは許されない。
「ターナを捕まえよう」
「ターナ……さまの境遇はかわいそうですが、悪事は許せませんっ」
「さて、問題はあやつの居場所じゃが」
ターナからは膨大な魔力を感じていたが、今はそんな魔力は感じられない。
この短時間で遠くに行ってしまったのだろう。
「あやつは転移魔法もちゅうちょなく使っておったから、もはやこのあたりにはおるまい。遺跡ををさがしたところで見つかりはせんじゃろう」
「行き先に心当たりは」
「あやつの研究所は大陸北部のノースヴェールにあるのじゃ」
ノースヴェール。
大陸の北部も北部。北の端っこじゃないか。
ここからだと列車を使っても一か月はかかる辺境だ。
「と、遠いですわね」
「ノースヴェールには雪が降っておるぞ。観光がてら旅行するのも悪くあるまい」
「りょっ、旅行って……。緊張感ないな」
「楽しめるなら楽しまねば損なのじゃ。のじゃじゃじゃ」
「わたし、雪を見たことないんです」
「おー、そうかそうか。プリシラは雪を知らぬか。ならノースヴェールに着いたら皆で雪合戦じゃな」
「ゆ、雪だるまも作ってよろしいでしょうか……?」
「いいともいいとも。のじゃじゃじゃじゃーっ」
な、なんか急に緊張感が薄れてきたな……。
マリアも呆れた面持ちだった。
王都に帰還すると、遺跡での出来事をキルステンさんに報告した。
「『冬の魔女』ターナ。その女が今回の事件の犯人と断定していいようだな」
「あの、キルステンさま」
「どうした、プリシラ」
「昔の王国が悪いことをしていたというのは本当なのでしょうか」
プリシラの問いかけに沈黙するキルステンさん。
しばらく黙り込んだあと、彼はうなずいた。
「暗愚な王が悪政を敷いていた時代があったのは事実だ」
「で、でしたら」




