8-7
プリシラがピンと獣耳を立てる。
俺とディアは再び夜空を見上げる。
しかし、流れ星はすでに消えてしまっていた。
……と、思いきや、ひとつ、ふたつ、みっつ、と立て続けに流れ星が夜空を横切った。
きらり。
一瞬だけ輝き、黒い空に光の線を引く儚い光。
「アッシュさまといつまでもいっしょにいられますように……」
そんなつぶやきが聞こえる。
視線を下ろすと、プリシラが祈るように両手を握り合わせて目を閉じていた。
アッシュさまといつまでもいっしょにいられますように。
そう何度もつぶやいていた。
「なにをしてるんだ? プリシラ」
「流れ星に願いごとをしているんですっ」
にこにこと笑みを見せるプリシラ。
「流れ星が消えるまで三度願いを言えば、それが叶うという言い伝えがあるのですよ、アッシュさん」
ディアがそう言った。
流れ星に願いごと、か……。
夜空を再び見上げる。
しばらくすると、また一つ、星が空からこぼれ落ちた。
「あんな一瞬で願いごとなんて言えないぞ」
「だからこそ、願いが叶うという言い伝えがあるのかもしれません」
それでもプリシラは流れ星が夜空を横切るたび、願いごとを唱えていた。
俺といつまでもいられることを彼女は願っていた。
それから俺たちは交代で火の番をしながら眠りについた。
俺は昨夜と同じく、小説を読みながら退屈な時間を過ごしていた。
「ふあぁ」
あくびをする。
眠い……。
まぶたが重く、本の字がかすんで見える。
物語の内容がさっぱり頭に入ってこなくて、同じ個所を何度も読み直している。
「そろそろ交代しましょうか」
横になっていたディアが起き上がった。
俺は懐中時計に目をやる。
交代するにはまだ早い。
「いや、だいじょうぶさ。ディアはゆっくり眠っていてくれ」
「そうしたいのですが、どうにも寝付けないのです。ですからわたくしに火の番をまかせてください」
「なら、そうさせてもらおうかな」
正直かなり眠かったので、ディアの申し出はありがたかった。
彼女に火の番をまかせると、その場に横になる。
すると眠気が一気に襲い掛かってきて、俺はあっという間に眠りに落ちた。
まぶたが完全に閉じる寸前、ディアがなにかを手に取って見ているのが一瞬だけ細い視界に入った。
白い朝陽がまぶたをつらぬく。
俺はそのまぶしさで目を覚ました。
起きると、すっかり朝になっていた。
「おはようございます。アッシュさん」
俺の横にはディアが座っていた。
プリシラは身体を丸めてぐっすり眠っている。
「ディア。もしかして、あれからずっと起きてたのか?」
「い、いえ、それが実は……途中で眠ってしまって……。わたくしもさっき起きたのです」
ということは、朝になるで俺たち全員寝ていたわけか。
野盗や魔物に襲われなくてよかった……。
「も、もうしわけありません……」
「しかたないさ。俺たち全員、旅には慣れていないんだから」
――おぬしらの代わりにワシが起きておったのじゃ。
魔書『オーレオール』の中からスセリがそう言ってきた。
――朝じゃぞプリシラ!
「ひゃあっ!」
スセリが叫ぶと、プリシラは垂直に飛び上がって目を覚ました。
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