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「ううう……。腕がジンジンしびれます……」
涙目のプリシラ。
よく見てみるとこのガラス、かなり分厚い。
それだけではない。おそらく、衝撃に強い特殊なガラスなのだろう。
そうでなければプリシラのロッドを一撃をくらえば木っ端みじんになるはずだ。
やはり魔法で破壊するしかない。
多少の被害を覚悟で魔法を唱えようとしたそのとき、部屋の奥に動くものが現れた。
人だ。
「誰かいます!」
つばの広い大きな帽子をかぶり、肌の露出がはなはだしい、きわどい衣装を身にまとった妙齢の女性。
人を誘惑する、艶かしい魔女。
女性を表現するとしたらその言葉が適切だろう。
魔女はガラス越しに俺たちの前に立つと、妖艶な笑みを浮かべた。
背筋に怖気が走る。
「だ、誰なのでしょう!?」
「わからない。あの! 開けてください!」
うったえかけるも、魔女は笑みを浮かべたまま。
何者なんだ、この女性は。
遺跡の探索にきた冒険者なのか……?
女性はくるりと背を向ける。
そして正面にある装置の前に立つと、指を動かして装置を操作しだした。
扉を開けてくれるのかと期待したが、それはとんだ誤解だった。
廊下の向こうから機械が動く音が聞こえる。
しばらくすると、左右の廊下の曲がり角からそれぞれ機械人形が出現した。
銃口の突き出た四角い箱に車輪のついた機械人形。
「は、はさみうちです!」
「プリシラはそっちを頼む!」
俺とプリシラは一体ずつ機械人形の相手をした。
俺は小さな障壁を盾にし、銃撃を弾きながら突進する。
そして機械人形に接近すると、胴体に手を添えて唱えた。
「奔れ雷!」
強烈な電撃が機械人形の内部を焼く。
大きな破裂音がすると同時に機械人形は真後ろに吹っ飛び、壁に激突した。
四角い胴体の隙間から煙がプスプスと昇っている。
完全に破壊した。
「やりましたね、アッシュさまっ」
振り返ると、プリシラも機械人形を撃破していた。
銃身は折れ曲がり、胴体は無残にへこんでいる。
「いや、よろこぶのは早いぞプリシラ」
「……あっ、ナノマシンですね!」
破壊したはずの機械人形は二体とも小刻みに震えている。
ナノマシンが修復しているのだろう。
「光よ、束縛せよ」
俺は束縛の魔法を唱える。
機械人形の真下に魔法円が浮かび上がり、そこから無数の光のツタが伸びて機械人形をがんじがらめにした。
これなら復活しても動けまい。
ひとまず目の前の脅威は無力化できた。
問題はガラス越しの魔女だ。
「やるわね、あなたたち」
廊下に女性の声が響く。
魔女が音声を発する機械越しにしゃべっているのだ。




