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と、そのとき、突如ベルの音が甲高く鳴り響いた。
「ひゃっ」
「おわっ」
しっとりした雰囲気だったので、俺もプリシラも驚いて声を上げてしまった。
端末に電話がかかってきたのだ。
スセリからだ。
俺は画面の通話ボタンに触れる。
すると画面にニヤニヤしているスセリの顔面が映し出された。
「いつまでイチャイチャしておるのじゃ」
「み、見えてるのか!?」
「ほー。やはりそうじゃったか」
しまった。カマをかけられた。
俺はつい画面から目をそらしてしまった。
「な、なにか情報が入ってきたのか?」
「いんや、なにも入っておらんのじゃ」
「なら切るぞ」
スセリの返事も待たず通話終了のボタンを押した。
そうして俺とプリシラはナノマシンを制御している場所をさがしに、本格的に動き出した。
もっとも、この塔にその場所があるとは限らない。
塔を上から下へ降りるだけの徒労になる可能性はじゅうぶんにある。
端末を操作して地図を見る。
事前にスセリから聞いていた場所に印が描いてある。
ナノマシンを制御している場所にあらかじめ見当をつけておいたのだ。
最上階と、その下の階だ。
まずは最上階を探索する。
広い通路を進んで印の場所へと目指す。
機械人形に遭遇しなければいいが。
今、ここにいる機械人形はナノマシンによって不死身となっている。
退けるのは容易ではない。
「涼しいですね」
プリシラがつぶやく。
言われてみれば涼しい。
外は強い日差しで暑いはずが、屋内のここは快適な温度だ。
「機械の力で涼しくしているのかもしれないな」
「冬だとあったかくなるのでしょうか」
「かもしれない」
「やっぱり昔の人ってすごいですね。魔法なんていらなかったんですね」
科学の力で発展してきた旧人類。
しかし、彼らは魔力を宿した水晶をめぐって争い、結果として滅びた。
高度な文明を持つ種族の無様な自滅。
彼らは魔法を欲していた。欲望というものは際限がないのだ。
印を描いた場所に到着する。
ガラスの扉で仕切られた大きな部屋だ。
ガラス越しにたくさんの機械が置かれているのがわかる。
いかにもなにかありそうだ。
ところが部屋に入ろうと扉にの前に立つが、開かない。
普通、こういう扉は自動で開閉する仕組みなのだが。
「故障しているな」
困ったな。
ドアノブがついていないから力ずくでも開けられない。
「壊しましょう!」
プリシラが物騒な提案をした。
だが、そうするしかなさそうだ。
「プリシラのロッドで壊せるか?」
「おかませくださいっ」
ロッドを両手で握ったプリシラは、腰をひねらせる。
そしてひねった腰を戻す反動で思い切り腕を真横に振り、ロッドの先端を扉に叩きつけた。
ドン! と大きな音がする。
「えっ!?」
「は、はうう……」
ガラスの扉は粉々に砕け散る――と思いきや、ロッドの先端が当たった場所に小さな傷が入っただけで、びくともしなかった。
腕力に長ける半獣のプリシラが渾身の一撃をかましたのに……。




