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80-7

 左腕で地面に手をついて、倒れていた身体を起こした。

 思い切りロッドで殴打されて破壊されていた頭部も、時間を巻き戻すように直っていき、あ然としている間に修復されてしまった。


「いかん! 逃げるのじゃ」

「防げ、障壁よ!」


 俺は障壁の魔法を唱える。

 次の瞬間、機械人形の頭部から光線が発射されて障壁の表面を焼いた。


「今のうちに逃げろ!」

「アッシュさまを置いていけません!」

「俺を信じてくれ!」

「プリシラ、逃げるのじゃ」

「で、ですが……」

「ワシらがいてはかえって足手まといじゃ」

「……はい」


 スセリとプリシラとマリアが逃げる。

 俺は依然として照射されている光線を障壁で防いでいた。


 熱い。

 障壁で光線自体は防げているものの、熱までは遮断できない。

 汗が額を滑って落ちる。


 最悪、転移魔法を使って脱出するしかない。

 しかし、俺の使える転移魔法は対象を一度分解して、目的地で再度構成する仕組み。

 原理としては死んで生き返らせるのに等しい。あまりにも危険だ。


 いよいよ耐え切れない熱さになってきた。

 熱すぎて皮膚が痛い。

 眼球が急速に乾いていき、目を開けているのもつらい。


 このままでは蒸発してしまう。

 俺は覚悟を決めて反撃に出た。


「障壁解放!」


 障壁を武器にして機械人形にぶつけた。

 直撃を受けた機械人形がよろめく。

 熱線がそれた。


 俺はすかさず金属召喚で槍を呼び出す。

 機械人形の首の付け根、金属で覆われていない関節部分に突き刺した。

 バチっと火花が飛び散り、続いて小さく爆発して煙が上がる。


 機械人形の目から光が消え、ぐったりとうなだれて動かなくなった。

 急がないとまたひとりでに修復してしまう。

 俺は一目散に逃げだした。


「アッシュさま!」

「待っていましたのよ」


 しばらく走った先に三人が待っていた。


「機械人形はやっつけましたの?」

「いや、一時的に動かなくさせるのでせいいっぱいだった」

「傷が勝手に修復されるなんて、キルステンさまからは聞いていませんでした」

「あれは」


 スセリがあごに手を添えながら、真剣な口調でこう口ずさむ。


「ナノマシンじゃな」

「ナノマシン……?」

「なんですの? それは」

「あやつら機械人形の体内には目に見えないほど小さな機械が住んでおるのじゃ」


 ナノマシンは機械人形が故障したときにその箇所を修復する能力を持っている。

 ナノマシンがあるかぎり機械人形は不死身なのだ。

 スセリはそう説明した。


「これは思いのほかやっかいな事態になりそうじゃの」

「あの機械人形を倒す方法がないという意味ですの?」

「いや、もっと大ごとになりそうなのじゃ」

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