80-5
これはきっと、さよならではない。
また会おう。
そう、前向きなあいさつを交わした。
「そろそろ時間です」
背後の空間がゆがみ、人間界へと続く扉が出現する。
俺たちは手を振りながら扉をくぐった。
扉を抜けた先は『シア荘』のリビングだった。
人間界に帰ってきた。
「うう……っ」
プリシラが嗚咽を上げて泣きだした。
俺は彼女の肩に手をやって抱き寄せる。
プリシラは俺の胸に顔をうずめて泣きじゃくった。
彼女が泣くのもしかたない。
また会おうと約束したけれど、やはり永遠の離別であるのもわかっていたのだ。
今は気のすむまで泣かせよう。
疲れるくらい泣かないと、このさみしさはまぎらわせない。
……と、そのときだった。
リリリリリ……とベルの鳴り響いて静寂を壊したのは。
端末の着信だ。
セヴリーヌからの電話だろうか。
そう思って端末の画面に目をやると、信じられないことが起きていた。
電話がかかってきたのはスセリの予備の端末からだった。
その予備の端末を今、所持しているのは――。
俺は震える指で通話のアイコンに触れる。
「アッシュ。アタシが見えるか……?」
画面にツノの生えた少女の顔が映った。
「ユリエル!」
プリシラが叫ぶ。
「プ、プリシラもいたのか」
画面の向こうのユリエルは戸惑っているようす。
「まさかホントに通じるなんてな……」
「科学的にありえんのじゃ……」
スセリは驚愕していた。
俺もプリシラも、マリアもベオウルフも驚いていた。
つながったのだ。
どういうわけか、人間界の端末と精霊界の端末が。
「プリシラ、泣いてたのか?」
「……うん」
「そ、そうか……。すまん」
「もう、ユリエルが謝ることじゃないでしょ」
「そうかもしれん」
プリシラが目じりの涙を拭ってくすりと笑った。
こうして俺たちは思いもよらぬほど早い再会を果たしたのであった。
端末の画面越しだが。
しかし、それでも互いの顔は見れるし言葉も交わせる。
その日以来、俺が預かっていた端末はもっぱらプリシラが持つようになった。
毎日必ずユリエルとおしゃべりしている。
楽しそうでなによりだ。
「それでここのところ通話中ばっかなんだな。ったく」
セヴリーヌが不満げに言った。
プリシラがユリエルとおしゃべりする時間とセヴリーヌが俺に電話をかけてくる時間がかぶっているせいで、セヴリーヌは最近、あまり俺と電話できていないのだ。
「アッシュ。遺跡に行ってお前専用の端末を拾ってこい」
「機会があったらな」
「今から行け」
「むちゃ言うな……」
セヴリーヌはすっかり不機嫌だった。




