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「短い間だったけど、今までいっしょに遊んでくれてありがとう。ベオ、プリシラ」
「うーっ」
プリシラは悲しげに目をうるませてうつむいている。
ベオウルフはそんな彼女の頭を「よしよし」となでてなぐさめていた。
ベオウルフはプリシラほど悲しみをあらわにしていない。
もしかすると離別には慣れているのかもしれない。
それはそれで悲しい。
「アッシュには前にも言ったけど、アタシは不幸になるわけじゃないんだ。言ってみれば、生まれた故郷に帰るようなものなんだからな」
「それはわかるけど……」
「プリシラ。僕たちは笑顔でいないと」
「うん……」
うなずきながらもプリシラはまだ落ち込んでいた。
いくら理解していようと感情というものはかんたんには変えられないのだ。
俺だって本当は悲しい。
その夜、俺とプリシラ、マリア、スセリ、ユリエル、それに師匠に外泊許可をもらったベオウルフの6人で花火を見ることにした。
今夜、王都で花火が打ち上げられるのだ。
俺たちは今、『シア荘』のバルコニーに集まっている。
「花火ってどんなのなんだ?」
ユリエルが尋ねる。
「空に『どーんっ』と火の花が咲くのですわ」
マリアがそう答えるとユリエルは「えっ!?」と驚く。
「そ、それって危なくないのか……?」
「安心してくださいまし。楽しいものですわよ」
「ならいいんだが……」
それでもなお彼女は不安げだった。
そんな純粋な彼女がかわいらしくて俺とプリシラは密かに笑みを浮かべていた。
「アッシュさま。花火はまだ打ち上がらないのでしょうか」
「あと少しだな」
懐中時計に目をやって時間を確かめる。
花火が打ち上がる時間までもう少々ある。
あたりはすっかり闇夜によって暗くなっている。
夜空を仰げばきれいな星がまたたいている。
宝石箱をひっくり返したようなきれいな夜空だ。
少し肌寒い。
「スセリさん、なにしてるのですか?」
妙なことをしているスセリを見てベオウルフが首をかしげる。
スセリは端末を横に持って手前に掲げている。
「写真を撮るのじゃ」
「シャシン……?」
「風景の一部を切り取って端末に写す機能なのじゃ」
スセリが言うところによると、写真というのを撮れば、写した写真をいつでも見ることができるらしい。
スセリは慣れた手つきで指を動かし、端末を操作する。
そして「ほれ」と端末の画面を俺たちに見せてきた。
「なっ!?」
画面には俺の寝顔が映っていた。
「アッシュさんの寝顔ですね」
「スセリ! お前いつのまに……!」
「こんなふうに思い出を残せるのじゃよ」
「わー、ステキな機能ですねっ」
これからは自室にカギをかけておこう……。




