79-6
「今日はいい思い出がつくれてよかった」
「ユリエル」
「お前の言いたいことはわかる。言えずにいる理由もわかる。アッシュだってアタシの答えもわかるだろ?」
「……ああ」
「せっかくできた友達と別れるのはつらいけど、精霊界には精霊竜さまがいる。別にアタシは不幸になるわけじゃないのをおぼえておいてくれよ」
精霊界に帰ると打ち明けた相手は俺が最初だった。
デートを終えて『シア荘』に帰ってからユリエルは他のみんなにもそのことを話した。
「そんな……。ユリエル、ホントに帰っちゃうの?」
プリシラが悲しそうな顔をしている。
これにはユリエルも心が痛んだようで、彼女は「すまん」と謝った。
「アタシもプリシラと別れるのはつらい。でも、精霊界に精霊竜さま一人を残しておくわけにはいかない。精霊竜さまはアタシのお母さんみたいなものなんだ」
「うん……」
「精霊界と人間界はもう二度とつながりませんの?」
マリアが尋ねる。
精霊界と人間界は近づいたり離れたりを繰り返してるというのを俺が説明する。
「では、また人間界に来れますのね」
「いや……」
顔を曇らせるユリエル。
「たぶん、次にまた二つの世界が近づくのは何百年も先だと思う」
「そんな……」
少なくとも、普通の人間の寿命よりは年月がかかるだろうとユリエルは言った。
これは実質、永遠の離別。
「出会いと別れは想い合うつがいのようなものなのじゃ。ならばせめて、祝福と共に送り出してやるのが友の役目ではないか?」
落ち込むプリシラとマリアにスセリがそう言った。
うなだれていたプリシラがばっと顔を上げる。
そしてぐいっとユリエルに顔を近づけた。
「ユリエル! 精霊界に帰るのはいつなの?」
「む、6日後にするつもりだが……」
「なら、その間、毎日ごちそうをつくってあげるねっ」
「やったのじゃー」
なぜかよろこんだのはスセリだった。
「スセリさまがはしゃいでどうしますの……」
「辛気臭い顔をしておるおぬしよりマシなのじゃ」
「わたくし、そんな顔してましたのね」
マリアが苦笑する。
「くよくよしていてはもったいないですわ。残された時間、ユリエルと楽しく過ごしましょう」
「ありがとう、マリア」
スセリのおかげで暗い雰囲気が払しょくされてなごやかになった。
宣言どおり、その日からプリシラは高い食材をうんと買ってきてごちそうを作った。
毎日、高級レストランのフルコースのような料理が振舞われた。
「ユリエルとお別れか。せっかっく友達になれたのに、さみしいな」
ベオウルフも毎日『シア荘』に顔を出してユリエルとプリシラと遊んだ。




