表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

551/842

79-4

 ユリエルと二人で繁華街をめぐる。

 甘いものを食べたり、服や小物を見て回ったり、彼女の年齢相応の楽しみかたをした。


 昼間の繁華街はうんざりするほど人で溢れかえっている。

 絶えることのない喧騒。

 活気に満ちている。


「人間ってこんなにいるんだな」

「びっくりしただろ?」

「最初はな」


 ユリエルはさっきから俺の服の裾を握っている。

 はぐれないようにするためだろうか。


 おそらく無意識にそうしているのだろう。

 なんだか妹ができたみたいだ。


「楽しそうだな、お前」


 気付かないうちににやにやしてしまっていたらしい。


「この鳥、かわいいなっ」


 露店の鳥かごで飼われている鳥を指さしてユリエルが笑う。

 子供らしい、健康的な笑いかただ。


「ユリエルもかわいいよ」

「へ……?」


 ぽかんとするユリエル。

 し、しまった。つい思っていたことを口にしてしまった……。

 これがプリシラならすなおによろこんでくれるのだが。


「い、いきなりなに言うんだお前……」


 ユリエルは頬を赤らめて目をそらした。

 気まずい空気になる。


「お嬢ちゃん、よかったらこいつをペットにしないかい?」


 露店の店主がそう言う。


「ペット……? ウチで飼うのか?」

「気に入ったんだろ? 安くするから買いなよ」


 店主が金額を提示する。

 たしかに安い。俺でも苦も無く買える値段だ。

 ユリエルが俺の顔をうかがう。


 俺はにこりと笑って尋ねる。

 

「買うか?」

「えっと……、ああ」

「へへっ、まいどあり。若い恋人さんたち」

「いや、恋人じゃないぞ」


 律儀に否定されてしまった。

 ユリエルは店主に鳥かごを渡される。


 この鳥、なんていう種類なんだろうか。

 それに鳥ってどうやって飼育するんだ?

 そんなことを考えていたらユリエルが思いもよらない行動をとった。


「それっ」


 ユリエルは鳥かごを開けると、鳥を空に解き放った。

 鳥は翼を羽ばたかせて空へと飛んでいく。

 俺はあ然としていた。


 ユリエルは「すまん……」と謝る。


「せっかく買ってくれたのに逃がしちゃって……」

「どうして逃がしたんだ?」

「だって、鳥は空を飛ぶものだろ?」


 そのとおりだ。

 鳥は空を自由に飛ぶもの。


「なにやってんだよお嬢ちゃん。あーあ。せっかく捕まえたってのに。まあ、お代は頂いたからいんだけどよ」

「あの鳥はこのあたりで捕まえたんですか?」

「そうだぜ。郊外の森に生息してる鳥なんだ」


 よかった。

 むやみに逃がしてちゃんと生きていけるのか心配したが、だいじょうぶなようだ。

 鳥は森のある方角へ向かって飛んでいき、やがて見えなくなった。


「やさしいんだな。ユリエルは」

「どうしてだ?」


 ユリエルはよくわからないようすで首をかしげていた。

 彼女は純粋だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ