79-4
ユリエルと二人で繁華街をめぐる。
甘いものを食べたり、服や小物を見て回ったり、彼女の年齢相応の楽しみかたをした。
昼間の繁華街はうんざりするほど人で溢れかえっている。
絶えることのない喧騒。
活気に満ちている。
「人間ってこんなにいるんだな」
「びっくりしただろ?」
「最初はな」
ユリエルはさっきから俺の服の裾を握っている。
はぐれないようにするためだろうか。
おそらく無意識にそうしているのだろう。
なんだか妹ができたみたいだ。
「楽しそうだな、お前」
気付かないうちににやにやしてしまっていたらしい。
「この鳥、かわいいなっ」
露店の鳥かごで飼われている鳥を指さしてユリエルが笑う。
子供らしい、健康的な笑いかただ。
「ユリエルもかわいいよ」
「へ……?」
ぽかんとするユリエル。
し、しまった。つい思っていたことを口にしてしまった……。
これがプリシラならすなおによろこんでくれるのだが。
「い、いきなりなに言うんだお前……」
ユリエルは頬を赤らめて目をそらした。
気まずい空気になる。
「お嬢ちゃん、よかったらこいつをペットにしないかい?」
露店の店主がそう言う。
「ペット……? ウチで飼うのか?」
「気に入ったんだろ? 安くするから買いなよ」
店主が金額を提示する。
たしかに安い。俺でも苦も無く買える値段だ。
ユリエルが俺の顔をうかがう。
俺はにこりと笑って尋ねる。
「買うか?」
「えっと……、ああ」
「へへっ、まいどあり。若い恋人さんたち」
「いや、恋人じゃないぞ」
律儀に否定されてしまった。
ユリエルは店主に鳥かごを渡される。
この鳥、なんていう種類なんだろうか。
それに鳥ってどうやって飼育するんだ?
そんなことを考えていたらユリエルが思いもよらない行動をとった。
「それっ」
ユリエルは鳥かごを開けると、鳥を空に解き放った。
鳥は翼を羽ばたかせて空へと飛んでいく。
俺はあ然としていた。
ユリエルは「すまん……」と謝る。
「せっかく買ってくれたのに逃がしちゃって……」
「どうして逃がしたんだ?」
「だって、鳥は空を飛ぶものだろ?」
そのとおりだ。
鳥は空を自由に飛ぶもの。
「なにやってんだよお嬢ちゃん。あーあ。せっかく捕まえたってのに。まあ、お代は頂いたからいんだけどよ」
「あの鳥はこのあたりで捕まえたんですか?」
「そうだぜ。郊外の森に生息してる鳥なんだ」
よかった。
むやみに逃がしてちゃんと生きていけるのか心配したが、だいじょうぶなようだ。
鳥は森のある方角へ向かって飛んでいき、やがて見えなくなった。
「やさしいんだな。ユリエルは」
「どうしてだ?」
ユリエルはよくわからないようすで首をかしげていた。
彼女は純粋だ。




