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楽隊がドラムを慣らす。
デロデロデロデロデロ――デンッ。
ドラムが鳴り止んだ次の瞬間、王さまが高らかに優勝者の名前を告げた。
「優勝者は――宿屋『ブーゲンビリア』の看板娘フレデリカ!」
えっ!?
「フレデリカ!?」
「なんじゃと!?」
出場者の中からフレデリカが前に出てくる。
そして王さまの隣に並んだ。
フレデリカはごきげんなようすで観客たちに手を振っている。
フレデリカ……。参加していたのか。
「誉れ高き優勝者よ。一言言うがいい」
「こほんっ」
拡声器を渡されたフレデリカが咳ばらいする。
それからこう言った。
「これからも宿屋『ブーゲンビリア』をごひいきにー」
万雷の拍手が鳴った。
俺とスセリはあ然としていたが。
こうして『王都お菓子作り大会』はまさかのフレデリカの優勝で幕を閉じたのであった。
大会が終わると俺たちはすぐさま宿屋『ブーゲンビリア』に足を運んだ。
ロビーの受付にはフレデリカが退屈そうにしていた。
俺たちの来訪に気付くと「いらっしゃいませ」と言うのも億劫なのか「ませー」とやる気のないあいさつをしてきた。
「フレデリカ。おぬしも大会に出場していたとはの」
「お母さんに言われたんだよねー。お店の宣伝のために出ろ、って」
「それで優勝するなんてすごいな。フレデリカ……」
「ぶっちゃけ、私も優勝するとは思ってなかったんですよねー」
失礼かもしれないが、俺も信じられなかった。
並みいる強敵たちを押しのけて、宿屋の娘が優勝するだなんて。
俺たちは奥の手であるマルタの木の実まで使ったのに……。
「ちょっと失敗したなー、って思いましたー」
カウンターにだらんとうつ伏せになるフレデリカ。
「お店の宣伝したら忙しくなっちゃうじゃないですかー。私の仕事が増えるだけだしー」
「そ、それはともかくフレデリカさま。わたしたちにもフレデリカさまのお菓子をいただけませんか?」
「いいよー。余ってるしー」
そういうわけで俺たちはフレデリカのお菓子を食べさせてもらった。
……おいしい。
すごくおいしい。
「なんじゃこれは!?」
「これ、本当にフレデリカさまが作られたのですか!?」
「ルミエール家専属のパティシエに匹敵しますわ……」
優勝するのも納得のおいしさだった。
はっきり言って、王都の有名パティシエのお菓子だと言われたら疑いなく騙される自信がある。
宿の名物として出せば、たちまち人気になるのは明らかだった。
フレデリカにこんな才能があったなんて……。
「ま、でもいっか。お城に招待されるんだしー。お母さん、お城に行くためのドレスを買ってくれるんだってー」
「よかったですわね」
「王族の人と恋仲になってー、私も王族の仲間入りするんだー」




