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また俺をからかっているのか。
あるいは本心か。
彼女のしぐさからすると後者らしい。
「あ、ありがとう……」
「ああ、一応言っておくのじゃ」
思い出したふうにスセリがそう切り出す。
そしてこう続ける。
「他に嫁を二人も三人も持つのは勝手じゃが、正妻はあくまでワシじゃからな。よいな? ワシはベオウルフのように謙虚ではないのじゃ。プリシラにもマリアにも負けぬのじゃ」
そう、この『稀代の魔術師』はよくばりなのだ。
罪深いほどの強欲。
「結婚するなんて言ってないだろ」
「優柔不断なおぬしの性格じゃ。ワシの求婚をこれからも拒み続けることなどできまい。いずれ結婚するハメになるのじゃ。のーじゃっじゃっじゃっ」
そう言われては否定はできなかった。
スセリを妻として迎える。
先祖と結婚するという倫理的な問題は置いておくとして、彼女と結婚することは決して嫌ではない。
未来永劫、ともにありたい。
自覚していないだろうが、この少女は存外もろい。
か弱い少女だ。
俺が守ってやりたい。
露店でさまざまなお菓子を食べながら歩き、目的地に到着した。
プリシラとマリアの露店だ。
「いらっしゃいませーっ」
「いらっしゃいませ」
「い、いらっしゃいませ……」
プリシラの太陽のような明るい笑顔。
マリアの上品な笑み。
ユリエルは緊張した面持ち。
やってきたのが俺だと気づくと、プリシラははっとなって獣耳を動かした。
「アッシュさまっ」
俺の来訪をとてもうれしがってくれた。
「来てくださったのですねっ」
「あたりまえだろ」
「きのうは露店の設営を手伝ってくださりありがとうございます」
「女の子三人だけで設営は大変だろうからな」
マリアがスセリにおじぎする。
「スセリさまも、応援に来ていただき感謝いたしますわ」
「うむ。がんばるのじゃぞ」
「お菓子の提出はもう済ませましたので、やることはありませんけどね」
ユリエルのほうに目をやる。
かわいい桃色のエプロンを身に着けている。
よく似合っている。
「な、なんだ? 笑いたければ笑えよ」
目が合うと、ユリエルにぎろっとにらまれた。
「似合ってるな」
「!?」
その瞬間、彼女の頬が赤く染まった。
プリシラがくすくすと笑う。
「とっても似合ってるよ、ユリエル」
「あ、ありがとう……」
プリシラにもほめられてユリエルは恥ずかしそうにうつむいた。
あとは結果待ちか。
王都中のパティシエが出場しているが、プリシラとマリアなら絶対に優勝できる。
俺は確信めいたものをおぼえていた。
「まもなく結果発表です。出場者は舞台までお越しください」
大会の運営者が訪れてそう告げてきた。
大会の結果発表の時間。
一団高い舞台があり、その上に今回の出場者たちが立っている。
舞台の手前には大勢の観客が集まっていて、結果発表を待っている。
俺とスセリも観客の中に混じっていた。
背伸びして頭を出し、プリシラとマリアのようすを見る。
二人とも、緊張して面持ちで立っている。
「それではこれより優勝者を発表する」
王さまが現れて、拡声の魔法が宿った道具を使ってそう言った。
「優勝者は――」




