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79-1

 また俺をからかっているのか。

 あるいは本心か。

 彼女のしぐさからすると後者らしい。


「あ、ありがとう……」

「ああ、一応言っておくのじゃ」


 思い出したふうにスセリがそう切り出す。

 そしてこう続ける。


「他に嫁を二人も三人も持つのは勝手じゃが、正妻はあくまでワシじゃからな。よいな? ワシはベオウルフのように謙虚ではないのじゃ。プリシラにもマリアにも負けぬのじゃ」


 そう、この『稀代の魔術師』はよくばりなのだ。

 罪深いほどの強欲。


「結婚するなんて言ってないだろ」

「優柔不断なおぬしの性格じゃ。ワシの求婚をこれからも拒み続けることなどできまい。いずれ結婚するハメになるのじゃ。のーじゃっじゃっじゃっ」


 そう言われては否定はできなかった。


 スセリを妻として迎える。

 先祖と結婚するという倫理的な問題は置いておくとして、彼女と結婚することは決して嫌ではない。

 未来永劫、ともにありたい。


 自覚していないだろうが、この少女は存外もろい。

 か弱い少女だ。

 俺が守ってやりたい。



 露店でさまざまなお菓子を食べながら歩き、目的地に到着した。

 プリシラとマリアの露店だ。


「いらっしゃいませーっ」

「いらっしゃいませ」

「い、いらっしゃいませ……」


 プリシラの太陽のような明るい笑顔。

 マリアの上品な笑み。

 ユリエルは緊張した面持ち。

 やってきたのが俺だと気づくと、プリシラははっとなって獣耳を動かした。


「アッシュさまっ」


 俺の来訪をとてもうれしがってくれた。


「来てくださったのですねっ」

「あたりまえだろ」

「きのうは露店の設営を手伝ってくださりありがとうございます」

「女の子三人だけで設営は大変だろうからな」


 マリアがスセリにおじぎする。


「スセリさまも、応援に来ていただき感謝いたしますわ」

「うむ。がんばるのじゃぞ」

「お菓子の提出はもう済ませましたので、やることはありませんけどね」


 ユリエルのほうに目をやる。

 かわいい桃色のエプロンを身に着けている。

 よく似合っている。


「な、なんだ? 笑いたければ笑えよ」


 目が合うと、ユリエルにぎろっとにらまれた。


「似合ってるな」

「!?」


 その瞬間、彼女の頬が赤く染まった。

 プリシラがくすくすと笑う。


「とっても似合ってるよ、ユリエル」

「あ、ありがとう……」


 プリシラにもほめられてユリエルは恥ずかしそうにうつむいた。


 あとは結果待ちか。

 王都中のパティシエが出場しているが、プリシラとマリアなら絶対に優勝できる。

 俺は確信めいたものをおぼえていた。


「まもなく結果発表です。出場者は舞台までお越しください」


 大会の運営者が訪れてそう告げてきた。



 大会の結果発表の時間。

 一団高い舞台があり、その上に今回の出場者たちが立っている。

 舞台の手前には大勢の観客が集まっていて、結果発表を待っている。


 俺とスセリも観客の中に混じっていた。

 背伸びして頭を出し、プリシラとマリアのようすを見る。

 二人とも、緊張して面持ちで立っている。


「それではこれより優勝者を発表する」


 王さまが現れて、拡声の魔法が宿った道具を使ってそう言った。


「優勝者は――」

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