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「できましたーっ」
「お待たせいたしましたわ」
プリシラとマリアが大皿を持って現れた。
皿には焼き立てのクッキーが山ほどある。
見た目は普通のクッキーだ。
「食べるのじゃ」
真っ先にスセリがクッキーに手を伸ばした。
そして一口でほおばる。
もぐもぐもぐ……、と口を動かす。
さて、マルタの木の実を練りこんだクッキーの味はどれほどのものか。
みんな、スセリの感想を待っている。
ごくん、と飲み込む。
スセリは真剣な面持ち。
もったいぶったふうに沈黙を保っている。
「ス、スセリさま。味はどうですか……?」
不安げにプリシラが尋ねる。
「うむ」
咳払いするスセリ。
次の瞬間、彼女は満面の笑みでこう言った。
「『とてつもなく』おいしいのじゃ!」
「やったーっ」
プリシラがぴょんと飛び上がった。
どれどれと、俺たちもクッキーを手に取ってかじる。
おいしい。
前にプリシラたちがつくったお菓子は家庭的なおいしさだったが、こちらは高貴な人間がお茶と共に楽しむ上品で気品あるおいしさに仕上がっている。
まさしく王侯貴族のためのお菓子だ。
「すばらしいです」
ラピス王女の太鼓判も得られた。
「この香ばしさ……。王族や貴族の社交の場で出されるお菓子にふさわしいです。一流パティシエのお菓子にも匹敵すると言っても過言ではありません」
これ以上のお菓子はあるまい。
俺たちは優勝を確信した。
……が、しかし、一人だけそうではなかった。
「アタシは前につくってくれたクッキーやケーキのほうが好きだな」
ユリエルだった。
「手作りっていうのかな、プリシラのやさしい気持ちが感じられた」
「ユリエルさま……」
「これってアタシがおかしいのか?」
「いえ、とってもうれしいですっ」
ユリエルの言葉にも一理ある。
前につくってくれたほうは家庭的な味わいがあった。
日常のティータイムに出されるお菓子なら、断然そちらのほうがいい。
「これからもお茶の時間にはいつものクッキーを焼きますね。ユリエルさま」
「あ、あとそれと」
「はい?」
「ア、アタシのことは『ユリエル』でいいぞ。かなりいまさらだが」
ユリエルは照れくさげに頬をかいている。
それを見たプリシラはにこりと笑い、こう言った。
「うん。わかったよ。ユリエル」
二人の距離が近づいた。
プリシラに仲の良い友達ができてうれしい。
ユリエルももう、ひとりぼっちではない。
「うーん、まことに美味なのじゃ」
スセリは一人、クッキーをひたすらむさぼっている。
「スセリさま。太りますわよ」
「太ったら別の肉体に魂を移し替えればよいのじゃ」
気軽に不老不死の力を使うな……。




