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「なあ、アッシュ……」
「どうした?」
上目づかいで俺の顔をうかがってくるユリエル。
俺は笑顔で応える。
「アタシ、実は――」
「実は?」
ユリエルは再び視線を下に向ける。
もじもじと股のあたりで手をこすっている。
言うか言うまいか悩んでいる。
「言いたくないなら無理しなくていいんだぞ」
「言いたくないわけじゃないんだ……」
キッチンから甘い香りが漂ってくる。
プリシラとマリアがクッキーを窯に入れたのだ。
もしばらく待てば焼き立ての菓子を食べられる。
なんでも『とびきり』おいしくなるというマルタの木の実。
本物だったとしたら、どれほどおいしくなるのだろう。
今から楽しみだ。
「ユリエルよ。アッシュに遠慮は無用なのじゃ」
「う、うるさい」
ユリエルは相変わらずスセリには厳しい。
「アッシュ!」
「な、なんだ……?」
決意したのか、ユリエルは俺の名を強く呼ぶ。
そしてこう命令した。
「今度、アタシを繁華街に連れていけ!」
それがユリエルの言いたかったことなのか……?
俺もスセリもラピス王女もぽかんとしている。
じれったくなったらしいユリエルが顔をぐいっと近づけてくる。
「いいのかダメなのかどっちだ!」
「も、もちろんいいぞ……」
俺の返事に満足したのか、ユリエルは顔を離した。
「忘れるなよ」
「どこか行きたいところがあるのか?」
「いろいろ見て回りたい」
「いつがいい?」
「お菓子の大会が終わってから。具体的な日はあとで言う」
街に出かけて遊びたいのか。
でも、それなら休日にいつもプリシラやベオウルフとしているはず。
スセリがニヤリとする。
「おぬし、アッシュとデートしたいのじゃな」
「デートってなんだ?」
「男女が仲良く出かけることなのじゃ」
「よくわからんが、たぶんそれだ。アッシュ。アタシとデートしろよ」
「わ、わかった」
けど、デートではないな。
別に嫌ではないから、彼女の言うことに従うとしよう。
「アタシ、服を買ったんだ。プリシラやベオウルフに選んでもらった」
なるほど。それを披露したいわけだな。
合点がいった。
「いっぱいひらひらがついてて、リボンがあって、スカートがひざまであるかわいい服だ。笑ったら殴るからな」
「笑うわけないだろ」
「いや、笑うかもしれない。鏡で見てみたけど、ぜんぜん似合ってなかったからな」
そうか。ユリエルは俺にほめてもらいたいんだ。
彼女は男勝りな性格。
プリシラと違ってひらひらやリボンは似合わないかもしれない。
けど、それがかえってかわいく見えるような気もした。
「わたくしも連れていってもらえませんか?」
ラピス王女がそう言う。
しかしそれをスセリがとがめた。
「いかんぞ。デートは男女二人が仲良くするためのものなのじゃからな」
「まあ、そうでしたか。無粋なことを申してすみません」




