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78-5

「なあ、アッシュ……」

「どうした?」


 上目づかいで俺の顔をうかがってくるユリエル。

 俺は笑顔で応える。


「アタシ、実は――」

「実は?」


 ユリエルは再び視線を下に向ける。

 もじもじと股のあたりで手をこすっている。

 言うか言うまいか悩んでいる。


「言いたくないなら無理しなくていいんだぞ」

「言いたくないわけじゃないんだ……」


 キッチンから甘い香りが漂ってくる。

 プリシラとマリアがクッキーを窯に入れたのだ。

 もしばらく待てば焼き立ての菓子を食べられる。


 なんでも『とびきり』おいしくなるというマルタの木の実。

 本物だったとしたら、どれほどおいしくなるのだろう。

 今から楽しみだ。


「ユリエルよ。アッシュに遠慮は無用なのじゃ」

「う、うるさい」


 ユリエルは相変わらずスセリには厳しい。


「アッシュ!」

「な、なんだ……?」


 決意したのか、ユリエルは俺の名を強く呼ぶ。

 そしてこう命令した。


「今度、アタシを繁華街に連れていけ!」


 それがユリエルの言いたかったことなのか……?

 俺もスセリもラピス王女もぽかんとしている。

 じれったくなったらしいユリエルが顔をぐいっと近づけてくる。


「いいのかダメなのかどっちだ!」

「も、もちろんいいぞ……」


 俺の返事に満足したのか、ユリエルは顔を離した。


「忘れるなよ」

「どこか行きたいところがあるのか?」

「いろいろ見て回りたい」

「いつがいい?」

「お菓子の大会が終わってから。具体的な日はあとで言う」


 街に出かけて遊びたいのか。

 でも、それなら休日にいつもプリシラやベオウルフとしているはず。

 スセリがニヤリとする。


「おぬし、アッシュとデートしたいのじゃな」

「デートってなんだ?」

「男女が仲良く出かけることなのじゃ」

「よくわからんが、たぶんそれだ。アッシュ。アタシとデートしろよ」

「わ、わかった」


 けど、デートではないな。

 別に嫌ではないから、彼女の言うことに従うとしよう。


「アタシ、服を買ったんだ。プリシラやベオウルフに選んでもらった」


 なるほど。それを披露したいわけだな。

 合点がいった。


「いっぱいひらひらがついてて、リボンがあって、スカートがひざまであるかわいい服だ。笑ったら殴るからな」

「笑うわけないだろ」

「いや、笑うかもしれない。鏡で見てみたけど、ぜんぜん似合ってなかったからな」


 そうか。ユリエルは俺にほめてもらいたいんだ。


 彼女は男勝りな性格。

 プリシラと違ってひらひらやリボンは似合わないかもしれない。

 けど、それがかえってかわいく見えるような気もした。


「わたくしも連れていってもらえませんか?」


 ラピス王女がそう言う。

 しかしそれをスセリがとがめた。


「いかんぞ。デートは男女二人が仲良くするためのものなのじゃからな」

「まあ、そうでしたか。無粋なことを申してすみません」

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