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「お、全員生きて帰ってこれたのじゃな」
続いてスセリが現れた。
今更だが、この二人だけを残したのは失敗だった。
二人は依然として仲が悪いから。
正確には、ユリエルが一方的にスセリを敵視していると言うほうが正しいか。
二人は『シア荘』でどんな会話をしていたのだろう。
もしかすると互いに不干渉だったのかもしれない。
「プリシラよ。マルタの木の実を見せてくれんか」
「はい、どーぞ」
プリシラから手渡されたマルタの木の実をスセリはしげしげと観察する。
「食べるなよ」
「ア、アッシュよ。ワシをなんだと思っておるんじゃ……」
スセリは顔をしかめたままマルタの木の実をプリシラに返した。
「スセリさま。この木の実で合っていたのでしょうか」
「こればかりはワシにもわからん。実際に菓子の素材に使ってみてはどうじゃ? 味見ならよろこんでしてやるのじゃ」
そういうわけで、さっそくプリシラとマリアはお菓子作りをはじめたのだった。
俺とスセリとユリエル、それとラピス王女はリビングで完成を待つことにした。
「紅茶をどうぞ」
ラピス王女がトレイから紅茶の入ったカップをテーブルに並べる。
王女さまにお茶を淹れてもらうって、すごい経験だ。
王族に無礼を働いた罪で罰せられてもおかしくない。
「す、すみません。ラピス王女」
「いえいえ。わたし、自分で紅茶を淹れるのをやってみたかったんです。いつもお茶の時間は執事にまかせていましたから」
「うーん、王族の淹れた茶はいいにおいがするのじゃ」
「アタシ、紅茶っていう飲み物は渋いから苦手だ」
ユリエルは果物のジュースが好きだと前に言っていた。
肉料理や甘いお菓子など、彼女は子供っぽい味の食べ物を好むようだ。
渋みや苦みが特徴の、いわゆる大人の味はまだ理解できないらしい。
貴重な王女さまの紅茶を口に含む。
……結構渋い。
これは蒸らしすぎだな。
「アッシュ・ランフォード。いかがですか?」
「えっと、おいしいです」
「本当ですか? 一瞬、顔をしかめましたが」
さすが王女さま。相手の表情をしっかり見ている。
「なんじゃ、正直な感想が欲しいのか? なら言うぞ。ダメダメなのじゃ」
「や、やはりそうでしたか……」
ラピス王女はがっくり肩を落とした。
「でもまあ、よいのではないか? おぬしは基本、もてなされる側なのじゃからな」
「経験するというのは大事です。いろんな立場を経験することで人として成長できるとわたくしは思っております」
「立派なのじゃな」
ふととなりに目をやる。
すると、となりに座っていたユリエルと目が合った。
ユリエルはさっと目をそらす。
俺を見ていたのか……?
ユリエルは下を向いてもじもじしている。
なにか言いたげなのがしぐさから伝わってきた。




