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ここより一歩でも前出れば最後、機械人形の光線で灰と化す。
「アッシュ。あなたの魔法でやっつけてくださいまし」
マリアが指示してくる。
魔書『オーレオール』の力を借りれば、機械人形を一撃で破壊できる魔法を唱えられるだろう。
幸いにも機械人形は泉に近づかないかぎり俺たちを敵とはみなしていない。
この距離から魔法を唱えれば安全に倒せる。
が、しかし、ラピス王女がそれをとがめた。
「あの機械人形は悪さをしていません。己に与えられた役目をまっとうしているにすぎません。壊すのは間違っていますよ。アッシュ・ランフォード」
「ラピス王女。あなたなにをおっしゃってますの?」
マリアが呆れる。
機械人形は基本的に冒険者の敵。
倒すべき相手だ。
あちらも問答無用で攻撃してくるから当然だ。
「で、ですけど、言われてみれば、ちょっとかわいそうかもしれません」
プリシラが意外にもラピス王女に味方した。
「王女として提案します。機械人形に交渉をもちかけてはいかがでしょうか」
「機械人形に言葉は通じませんわ」
「古代の人間が作ったものならば、言葉も通じるのでは?」
俺も冒険者になりたてのころはラピス王女と同じことを思っていた。
ところが機械人形には基本的に言葉は通じない。
兵器として造られた機械人形は、その多くが言語を理解する機能が備わっていないのである。
「争いは避けられないのですね……」
残念がるラピス王女。
やさしい人だな。
交渉を第一に考えるとは、やはり王族だ。
「さあ、アッシュ。やってしまいなさい」
俺は精神を集中させる。
魔書『オーレオール』から流れてくる膨大な魔力を一点に集中させる。
そして機械人形に手をかざし、魔力を解き放った。
紫色の雷撃が槍となり、瞬時にして機械人形に襲いかかる。
雷撃で貫かれた機械人形は内部の機械を破壊され、爆発して壊れた。
完全に破壊した。
「ご、ごめんなさい。機械人形さん」
「古き番人よ。せめて安らかな眠りを」
動かなくなった機械人形に手向けの言葉を送ってから目当てのものに近づいた。
マルタの木だ。
木にはラピス王女の手帳に描かれていたものと同じ木の実がなっていた。
「えいっ」
プリシラが猫のごとき跳躍で木の実を採った。
「これがマルタの木の実……」
「つに手に入れましたわね」
マルタの木の実を材料に使った料理はどんなものでも『とびきり』おいしくなる。
これさえあれば王族の舌も満足させられるに違いない。
目的を達成した俺とプリシラ、マリア、ラピス王女は『シア荘』に帰ってきた。
「おかえり。無事に帰ってこれたんだな」
ユリエルが出迎えてくれた。
「はいっ。これでお菓子作り大会の優勝は間違いなしですっ」




