77-6
「俺が相手をする」
「まかせましたわよ」
「アッシュさまーっ、がんばってくださーいっ」
「ご武運を」
狭い洞窟内ではどうしても一対一の戦闘を強いられる。
この暗くて狭い場所で複数でいどむと、同士討ちを起こしてかえって不利になるからだ。
剣を構えてじりじりと甲殻類型の魔物ににじり寄る。
魔物はハサミを振り上げて威嚇している。
俺は先制攻撃をしかけた。
一気に詰め寄り、剣を振る。
鋭い刃を持った剣は魔物のハサミを根元から切り落とした。
すかさず退避する。
痛覚がないのか、魔物は動じず、残されたもう片方のハサミを使って攻撃してきた。
バチン、とハサミが閉じる。
今は回避できたが、あの万力のようなハサミにはさまれたらタダではすまないだろう。
俺は再び攻撃に出る。
残ったのほうのハサミも切り落とす。
武器を失った魔物は後ろ歩きで暗闇の中に逃げていった。
「追い払ったぞ」
「やりますわね」
「見事な戦いぶりでした。アッシュ・ランフォード」
「てへへー。アッシュさまはとても強いんですよ、ラピス王女さまっ」
プリシラは自分がほめられたみたいに誇らしげに言った。
魔物は逃げ出し、切り落としたハサミだけが地面に落ちている。
ラピス王女はおもむろにそれに近づくと、指でつんつんとつついた。
「食べられますか?」
「おいしくはないと思います」
「残念です。カニに似ているからおいしいと思いましたのに」
どうしてなのかはわからないが、魔物は総じてとても不味い。栄養もないという。
ゆえに冒険中に魔物を倒して食料を入手するという方法が使えないのだ。
爪や牙、毛皮は道具に加工できるのでまったくの無駄というわけではないが。
このカニのハサミの使い道は……ないだろうな。
俺たちはハサミをその場に放置して先へと進んだ。
洞窟の深くまで進むと、空気がだいぶ冷たく、しめってきた。
頭上で俺たちを追従する光の球が唯一の光源。
慎重に進んでいく。
「きゃっ」
いきなり背中から抱きつかれる。
「ラピス王女!?」
抱きついてきたのはラピス王女だった。
「し、失礼いたしました。うなじに水滴が落ちてきまして……」
いきなり抱きつかれて驚いた……。
俺はどぎまぎしているのをさとられまいと平静を装った。
「アッシュ。あなた、内心よろこんでますわね」
「そ、そそそんなわけないだろ」
「本当ですの?」
マリアが俺の前に回り込んで顔を覗き込んでくる。
反射的に視線をそらしてしまった。
「目をそらしましたわね!」
マリアはふくれっ面になっていた。
後ろめたいことはなにもしていないもかかわらず、なぜか非難されるはめになった。




