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「すみませんがラピス王女。同行はさせられません」
「そんな! 場所を教えたのですから、こちらの希望を叶えてくださりませんと不公平ですよ!」
「で、ですが……」
「冒険がしたい! 胸躍る冒険がしたいんです!」
子供みたいにダダをこねるラピス王女。
本当に困った人だ……。
「なんかアタシの知ってる王女さまと違う感じだな。こいつ、ホントに王女さまなのか?」
ユリエルが失礼ながらも率直な疑問を口にした。
精霊界の図書館で暮らしていたユリエルは、おとぎ話の王女さましか知らないのだろう。
おしとやかで、物腰のやわらかな。
「お父さまの! お父さまの許可は得てます!」
「ラピス王女。ウソはつかないでください」
「本当ですって! では、直接お父さまに謁見しますか!?」
「さ、さすがにそれは……」
「まー、よいのではないか? おてんば王女さまのわがままに付き合うのも一興ではないか」
無責任にそう言うスセリ。
「もしものことがあったときは……」
「細かいことを気にするやつじゃの」
「そうですよ。アッシュ・ランフォード。あなたならわたくしの騎士になれます」
「アッシュさま」
プリシラ俺を見つめる。
「わたし、お菓子作り大会でなんとしても優勝したいですっ。そのためには危険を冒す覚悟だってありますっ」
「わたくしもルミエール家の娘。常に頂点にいなければ気が済みませんわ」
マリアもプリシラに加勢した。
そういうわけで俺たちはラピス王女を連れて冒険に出ることになったのだった。
後日、北西の洞窟入口。
俺とプリシラ、マリアが到着すると、ラピス王女が護衛の兵士を二人連れてすでにそこにいた。
「あら、スセリさまとツノの生えた方は?」
「二人は留守番です」
「そうですか」
スセリは野暮用があるとか言って外出し、ユリエルはブラックマターを狩りに精霊界へ行っている。
「あなたたち。護衛はもう結構。帰ってよろしいです」
ラピス王女が護衛の兵士たちに言う。
兵士たちは心配そうに顔を見合わせる。
「王女。くれぐれも無茶はなさらないよう……」
「承知してます。さあ、城に帰ってください」
彼らを追い払うと、ラピス王女は目をきらきらと輝かせて俺たちに接近してくる。
「冒険に出発ですね」
よく見ると、腰に短剣を吊るしている。
まさか、魔物と戦うつもりじゃないだろうな……。
「ラピス王女。魔物との戦いは俺たちにまかせてください」
「えー」
「『えー』じゃありません。さもなくば冒険は中止です」
「しかたありませんね……」
さて、いよいよ洞窟の探索開始だ。
「光よ」
俺は照明の魔法を唱える。
手のひらから小さな光球がふわりと出現し、頭上に追従する。
光は真っ暗な洞窟を照らしてくれた。
空気が湿っている。
外と比べて中は寒い。




