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「ううう……。これではアッシュさまの顔に泥を塗ってしまいます……。メイド失格です……」
プリシラがしょぼんとうなだれる。
対してラピス王女は笑みを浮かべている。
「ラピス王女。あなた、なにか秘策がありますわね」
マリアが言うと、ラピス王女は「そうです」とうなずいた。
「どんな料理でもとびきりおいしくなる、秘密の食材を知っています!」
「ええーっ!?」
ど、どんな料理でもおいしくなる秘密の食材……?
なんだかすさまじくうさんくさい。
そんな都合のいいものがあるというのか。
「その名も『マルタの木の実』です」
「マルタの――」
「木の実――」
聞いたことがない名前だ。
「ほう、マルタの木の実か」
意外にもスセリがその名に反応した。
「スセリさま、知っているのですか?」
「うむ。錬金術に使う材料として知られておるのじゃ」
「実在するのか?」
「希少な材料じゃが実在はする。もっとも、ワシは実物は見たことないがの」
「マルタの木の実を生地に練り込めば、どんなお菓子もとびきりおいしくなると言い伝えられているのです」
なるほど。『とびきり』おいしくなる、か。
「大昔はありふれた木の実としてどこにでもなっておったらしいのじゃが、人間や竜に食いつくされてその姿を消したと言われておる。菓子の材料に使えばおいしくなるのも本当じゃろう」
「それって店に売ってたりするのか?」
「違法な店になら並んでおるかもしれんの。あるいは闇オークションか」
ふつうの店には売っていないわけだな。
さすがに法に触れてまで手に入れるわけにはいかない。
「ご安心ください。わたくし、マルタの木の実がなっている木のありかを知っているのです」
「ええーっ!?」
プリシラがまた声を上げた。
「ラピス王女さま。ここに来たということは、もちろんわたくしたちに教えてくださいますのよね?」
「ええ。ですが――」
ラピス王女がにやりと笑う。
「条件があります」
「ダメです」
「まだ言ってませんけれど!?」
嫌な予感がしたから俺は先手を打って拒否したのだった。
「じょっ、条件は、マルタの木がある場所までわたくしを同行させることですっ」
「どこにあるんですか?」
「わたくしの同行を許可していただいたら教えてさしあげましょう」
「……その場所しだいです」
「しかたありません。先に教えましょう。北西の洞窟を抜けた先の平原にあります」
北西の洞窟って、魔物が生息している危険な場所じゃないか。
冒険者ギルドの仕事で何度か探索したことはあるが、凶暴な魔物が潜んでいることから奥深くまで探索するのを禁じられている。
そんな場所に王族を連れていくわけにはいかない。




