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二人の姿がふっと消える。
それから再び二人が現れたとき、10年ほどの月日を経た姿になっていた。
たぶんリオンさんもスセリも成人している。
「リオン。この子の名前は決めてくれたのか?」
「『リード』って名前はどうかな」
大人になったスセリの姿は俺にとって新鮮だった。
前に一度、スセリの年老いた身体を若返らせるときに見たきりだ。
スセリは成長するとこんな顔になるんだな。
成人したスセリは美人だった。
人を騙す狐のような妖しさを感じる美しさだ。
銀色の髪が余計彼女を美しく、妖しくしている。
彼女の腹は大きく膨らんでいる。
話の内容から察するに、リオンさんとの子供なのだろう。
スセリは愛しげに腹をなでている。
二人の姿が消える。
そしてまた現れると、今度はかなりの年月が経った姿になっていた。
リオンさんもスセリもしわまみれの老人だ。
「リオンよ。提案があるのじゃが」
「なんだい?」
「ワシと共に永遠の時を生きんか?」
スセリが提案する。
「ワシは魂を別の肉体に移す魔法を完成させた。これにより、疑似的に不老不死になれる。ワシたちは死の呪縛から逃れられるようになったのじゃ」
リオンさんは穏やかな顔を保ったまま黙っている。
スセリは続ける。
「どうじゃ? リオンよ。二人で不老不死になろうぞ」
「……僕は」
リオンさんはゆっくりとした語調で、子供に諭すようにこう言った。
「僕はキミと共にはいけない。ごめん」
「じゃが!」
スセリがリオンさんにすがりつく。
リオンさんは涙ぐむ彼女の頭に手を添える。
「リードも大人になって、結婚して子供ができた。僕は自分の子供の未来を見届けることができた。それだけで満足だ。もう、思い残すことはない。人が受けられるしあわせをじゅうぶん受けられたよ」
「……死ぬのは怖くないのか?」
「スセリは夜、眠るのが怖いのかい?」
その言葉を最後に二人の映像は消えた。
スセリの夫のリオンさんは不老不死を拒んだ。
愛する妻であるスセリを置いて。
そしてこの時代になって、スセリは再び家族に――俺に拒絶された。
俺もリオンさんと同様、彼女の提案を拒んでしまった。
スセリはどんな思いで俺の返事を聞いたのだろう……。
胸が苦しくなる。
スセリの心境を察して。
スセリは孤独だ。
数多の権力者が望んでも手に入らなかった不老不死になれたが、孤独を癒すことまではできなかった。
自分の魂を解放した人間が、自分の子孫だったことに運命を感じたのかもしれない。
だとすると、俺は彼女を相当失望させたろうな。
しばらく待ってみたが、映像はこれきりだった。
俺は先へと進んだ。




