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76-5

 二人の姿がふっと消える。

 それから再び二人が現れたとき、10年ほどの月日を経た姿になっていた。

 たぶんリオンさんもスセリも成人している。


「リオン。この子の名前は決めてくれたのか?」

「『リード』って名前はどうかな」


 大人になったスセリの姿は俺にとって新鮮だった。

 前に一度、スセリの年老いた身体を若返らせるときに見たきりだ。

 スセリは成長するとこんな顔になるんだな。


 成人したスセリは美人だった。

 人を騙す狐のような妖しさを感じる美しさだ。

 銀色の髪が余計彼女を美しく、妖しくしている。


 彼女の腹は大きく膨らんでいる。

 話の内容から察するに、リオンさんとの子供なのだろう。

 スセリは愛しげに腹をなでている。


 二人の姿が消える。

 そしてまた現れると、今度はかなりの年月が経った姿になっていた。

 リオンさんもスセリもしわまみれの老人だ。


「リオンよ。提案があるのじゃが」

「なんだい?」

「ワシと共に永遠の時を生きんか?」


 スセリが提案する。


「ワシは魂を別の肉体に移す魔法を完成させた。これにより、疑似的に不老不死になれる。ワシたちは死の呪縛から逃れられるようになったのじゃ」


 リオンさんは穏やかな顔を保ったまま黙っている。

 スセリは続ける。


「どうじゃ? リオンよ。二人で不老不死になろうぞ」

「……僕は」


 リオンさんはゆっくりとした語調で、子供に諭すようにこう言った。


「僕はキミと共にはいけない。ごめん」

「じゃが!」


 スセリがリオンさんにすがりつく。

 リオンさんは涙ぐむ彼女の頭に手を添える。


「リードも大人になって、結婚して子供ができた。僕は自分の子供の未来を見届けることができた。それだけで満足だ。もう、思い残すことはない。人が受けられるしあわせをじゅうぶん受けられたよ」

「……死ぬのは怖くないのか?」

「スセリは夜、眠るのが怖いのかい?」


 その言葉を最後に二人の映像は消えた。

 スセリの夫のリオンさんは不老不死を拒んだ。

 愛する妻であるスセリを置いて。


 そしてこの時代になって、スセリは再び家族に――俺に拒絶された。

 俺もリオンさんと同様、彼女の提案を拒んでしまった。

 スセリはどんな思いで俺の返事を聞いたのだろう……。


 胸が苦しくなる。

 スセリの心境を察して。

 スセリは孤独だ。


 数多の権力者が望んでも手に入らなかった不老不死になれたが、孤独を癒すことまではできなかった。

 自分の魂を解放した人間が、自分の子孫だったことに運命を感じたのかもしれない。

 だとすると、俺は彼女を相当失望させたろうな。


 しばらく待ってみたが、映像はこれきりだった。

 俺は先へと進んだ。

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