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76-4

 魔剣アイオーンはなおも赤く脈打っている。

 持ち主が死んでもこいつはまだ生きている。


 アイオーンを握っていたナイトホーク腕が干からびる。

 そして朽ちてバラバラになった。


 アイオーンがふわりと浮き上がる。

 そのまま俺の前へとゆっくりと近づいてきた。

 アイオーンは求めている。新たな宿主を。


 俺は精霊竜からもらった剣を構える。

 振りかぶった剣でアイオーンを叩き斬った。

 剣に宿った聖なる力によってアイオーンは刀身の半ばで折れた。


 浮遊していたアイオーンが地面に落ちる。

 二つに折れたそれの断面から黒いもやが吹き出てくる。

 黒いもやを出し切ると、アイオーンは赤い光を失った。


 慎重に指で触れる。

 指先が触れたとたん、アイオーンは乾いた砂のように崩れた。


 邪悪なる剣は邪悪なる者と共に滅びた。

 立ちはだかる敵を退けた俺は先を急いだ。



 森を歩いていくと、木々がなくなったところに川が流れていた。

 透明な水がさらさらと流れている小川。


 川には橋が架かっている。

 俺は橋を渡って川を越えた。


 森を抜けた川を渡って先に進むと廃墟群へと至った。

 ところどころに朽ちた建物がそこかしこにある。


 ユリエルと以前、砦に行ったこともある。

 竜しか住んでいたいはずのここに図書館や砦や家、橋といった人工の建築物があるのに、俺はずっと疑問に思っていた。

 精霊界には人が住んでいた痕跡があるのだ。


 精霊界にははるか昔、人間がいたのだろうか。

 そんなことを考えていたそのとき、建物と建物の間を誰かが横切った。


「スセリ!」


 見間違えるはずがない。

 銀色の長い髪の少女。

 スセリだ。


 スセリを追いかける。

 建物を曲がって振り向くと、彼女の後姿が見えた。

 やっと追いついた。


「スセリ! さがしたんだぞ」


 安堵した俺はスセリの肩に手を振れる。

 ……が、しかし、その手を肩に触れることなくすっと空振りした。


「なっ!?」


 スセリに触れようとしても触れられない。

 霧に手を伸ばすかのように、俺の手は彼女の身体を素通りするのだ。

 しかもスセリは俺の存在を完全に無視して正面を向いたまま。


「幻影……なのか……?」


 このスセリは実体を持たない幻影らしい。

 映像というやつか。


「リオン!」


 幻影のスセリが声を出した。

 そして駆けていく。

 その先には一人の青年が立っていた。


「あれは――俺なのか!?」


 一瞬、その青年は俺自身かと思った。

 ところがちゃんと見ると、俺にそっくりな他人だった。

 幻影のスセリが青年の腕に自分の腕を回す。


「リオン、遅かったのじゃ。約束の時間を過ぎておるのじゃ」

「ああ、すまない、スセリ」


 リオンと呼ばれた青年がにこりと笑った。

 スセリのほうも文句を言っておきながら笑顔である。

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