76-3
「私は精霊剣承をなし、魔王ロッシュローブを復活させる」
「そして世界を滅ぼすつもりか」
「この世界は不均衡だ。不完全だ。持つ者が富み、持たざる者が奪われる。そんな世界は一度まっさらにしてやり直す必要があるのだ」
「どんな言い訳を使ったって、人々が暮らす世界を壊す理由にはならない!」
ケルタスの宿屋のヴィットリオさんやクラリッサさん。
貴族の娘ミュー。
不老の少女セヴリーヌ。
都会っ子のフレデリカ。
この世界には大切な人がたくさん住んでいる。
俺だけではない。
この世界に住む人々には大切な人がいるはずだ。
そんな世界を壊すのは許されない。
「ナイトホーク。ここで決着をつけよう」
「のぞむところだ。アッシュ・ランフォード。貴様の命、今日こそもらいうける」
二人のレイブンが左右に飛び、俺を包囲した。
そして三人同士に攻撃してくる。
俺は唯一安全な後方に飛び退いて攻撃を避けた。
二人のレイブンが短剣を投げてくる。
障壁魔法をとっさに展開し、それを防御する。
続いてナイトホークが急接近してきてアイオーンで障壁を叩き壊した。
「死ね」
アイオーンを真横に振ってくる。
それを剣で防御する。
「我らロッシュローブ教団の悲願、ここで果たす」
「お前たちのたくらみは俺が止めてみせる!」
肉薄した状態になって気付いた。
ナイトホークは目を見開いて狂ったように笑っていた。
アイオーンの力に支配されている……。
アイオーンからもれてきた黒いもやのようなものがナイトホークの手を這いずって全身に及ぶ。
ナイトホークはなおも笑っている。
「ハハハハ! 力を! 力を感じるぞ!」
ナイトホークが理性を失いつつある。
「すべてを破壊する!」
「障壁よ!」
ナイトホークがアイオーンを振るうと、黒い爆発が起こった。
たまらず目を閉じる。
すさまじい爆発音がして、爆風が髪をはためかせる。
脚を踏ん張っていないと吹き飛ばされそうだ。
俺は歯を食いしばり、下半身に力を集中させてどうにか爆風をこらえていた。
しばらくして爆発が収まる。
目を開く。
俺を中心に円形に爆発が起きたらしく、地面はえぐれ、周囲の木々はなぎ倒されていた。
ローブが二つ、地面に落ちていて、黒い砂の山が近くにある。
二人のレイブンは爆発に巻き込まれてしまっていた。
そして、ナイトホークも……。
俺の目の前にあるのは魔剣アイオーン。
その手を握る腕は肘のあたりでちぎれている。
おそらく、胴体は爆発によって吹き飛んだのだろう。
アイオーンによって狂わされたナイトホークは自滅してしまっていた。
力におぼれた者の末路だ。




