76-2
森の中へと足を踏み入れる。
生い茂る木々の葉が空にふたをしていて薄暗い。
その隙間からは木漏れ日。
鳥の鳴き声。
心を落ち着かせるやさしい雰囲気の森だ。
そんなふうに油断していたから、目の前に突如出現した存在に驚いてしまった。
人の形をした黒い物体。
汚れた魂のなれの果て――ブラックマターだ。
俺は精霊竜からもらった剣を召喚する。
その剣でブラックマターを斬った。
手ごたえなくまっぷたつになったブラックマターは跡形もなく消滅した。
敵意のないブラックマターで助かった。
あれに先制攻撃をされていたら、間違いなく避けられなかっただろう。
草むらが揺れる。
俺はそちらを向いて身構える。
そこから獣型のブラックマターが飛び出してきた。
躍りかかってきた獣型ブラックマター。
俺は真横に飛び退いて回避する。
先ほどの人型とは違い。こちらはかなり攻撃的だ。
もともとは肉食動物だったからだろうか。
「光よ、敵を束縛せよ!」
捕縛の魔法を唱える。
獣型の足元に魔法円が浮かび上がり、そこから出現した光の触手が獣型に巻き付いた。
身動きが取れなくなった獣型の首を、俺は剣で叩き斬った。
頭部を斬り落とされた獣型ブラックマターは消滅した。
「これは……!」
森をしばらく歩いていくと、地面に倒れた白いローブの人間を見つけた。
ロッシュローブ教団だ。
開きっぱなしの目は虚空を見つめている。
首からは多量の出血。
絶命しているのは一目でわかった。
やはりこの先に精霊剣がある。
俺は足を速めようとした――そのときだった。
とてつもない殺気を感じて肌がぴりつく。
俺はどこから攻撃されているのか確かめる前に、とにかくその場から動こうと前方に飛び退いた。
前転して前に転び、すかさず振り返る。
頭上から攻撃してきたのだろう。俺のいたところに、ローブをまとった人間がいた。
手には剣を持っている。
赤い光が脈打つ漆黒の剣――魔剣アイオーンだ。
「お前は……、ナイトホーク!」
「久しいな。アッシュ・ランフォード」
白いローブの人間がフードを脱ぐ。
そこから端正な顔立ちの青年の顔が現れた。
俺やスセリたちと何度も戦った因縁の敵、ナイトホークだった。
「ナイトホーク。お前に精霊剣承はさせない」
「私を止めるつもりか。愚かな」
パチンッ。
ナイトホークが指を鳴らす。
すると、彼の左右に突如として白いローブの人間が出現した。
しかもその人間はいずれも同じ顔をしている。
見覚えのある顔だ。
王都剣術大会で戦った相手、レイブンだ。
やはりナイトホークの手駒だったのか。




