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アスカノフがどうしてここに……。
「久しぶりー。アッシュくーん」
そのうえなんと、アスカノフの首に赤い髪の女性がまたがっていたのだ。
魔法使いを連想させる、きわどい衣装を着たその女性は錬金術師のノノさん。
アスカノフの主人でもある。
彼女までいるなんて。
アスカノフとノノさんは海を隔てた向こうの大陸に住んでいるはずなのに。
「ノノさま。アスカノフさま。どうしてここにいるのですか?」
「アスカノフちゃんがね、精霊界とのつながりがどうたらって言いだしたのよ」
「『どうたら』って……」
ノノさんもよく理解していないらしい。
「ワガハイが説明する。ご主人は黙っているがよい」
「はーい」
アスカノフが「こほんっ」と咳払いしてから説明しだした。
「ワガハイたち竜は精霊界とこの世界のつながりを感じることができるのだ。そのつながりの力がここ最近、急激に強まってきたのを感じていた。ゆえに数日前からそのつながりが最も強い場所である王都へと向かったのだ」
裂けた空を見上げるアスカノフ。
「精霊界とこの世界が完全につながるなど未曽有の事態」
「アスカノフちゃんが言うには、なんでも願いごとが叶う剣があるらしいのよ」
精霊剣承を知っていたのか。アスカノフは。
すでに精霊剣承をなすために精霊界に乗り込んだ者たちがいるのを伝えると、アスカノフは「むむう……。やはりか」と顔をしかめさせた。
「精霊剣承は人間には過ぎた行為。欲望を際限なく肥大化させて惨事を起こすのは明らか」
「えっ、そう? スセリちゃんの願いは人間が永遠に生きられるようにすることでしょ? それっていいことなんじゃない?」
ノノさんが率直な感想を口にする。
「いきなりすべての人間が不老不死になったら大混乱が起きますよ」
「でも私、最近お肌が荒れがちで、歳をとったのを感じるのよねー」
「人間みんながノノさまのようなお方ばかりなら問題ないでしょうけどね」
アスカノフが身をかがめる。
「乗るのだ。『稀代の魔術師』を追うのだろう?」
「力を貸してくれるのか?」
「もとより人間たちを精霊界に踏み入れさせぬためにやってきたのだ」
「精霊界の入り口にはロッシュローブ教団がいるのですっ」
「あの程度、ワガハイの敵ではない」
思いがけぬ味方を得た。
俺たちはさっそくアスカノフの背中に乗った。
「しっかりつかまっているのだぞ」
「承知しましたわ」
「しっかりつかまりますっ」
マリアとプリシラがしっかりつかまる――俺に。
「マ、マリアさま! どうしてアッシュさまにつかまっているのですか!?」
「プリシラこそ」
「まだやるのか、お前ら……」
ユリエルが呆れかえっていた。
「さあ、ゆくぞ」
翼を羽ばたかせ、俺たちを乗せたアスカノフは飛翔した。
ほとんど垂直で上昇していく。
目を開けていられない、息ができないくらいの風圧だ。




