75-1
「寝るときはこの服を着るのか?」
「そうですよ、ユリエルさま」
ちょうど背丈も近かったのでプリシラのパジャマを着せてもらったらしい。
新鮮な着心地なのか、そわそわしている。
「それじゃあ……」
「おやすみ。ユリエル」
「言われなくても寝るんだが」
「違うって。『おやすみ』は寝るときのあいさつなんだ」
「そ、そうなのか……」
恥をかいたと思ったらしく、ユリエルは赤面する。
「おやすみ。ユリエル」
俺はもう一度そう言う。
ユリエルは照れくさそうに鼻をかきながらこう返した。
「おやすみ……。アッシュ・ランフォード」
「『アッシュ』って呼んでくれ」
「わかった。アッシュ。おやすみ」
こうして『シア荘』に新たな住人が加わったのだった。
昼間、俺とプリシラ、スセリとマリアは冒険者として仕事をこなし、ユリエルは精霊界でブラックマター狩りをする。夕方になると『シア荘』で団らんのひとときを過ごす。
そんな日々を続けていくうちに、ユリエルはすっかり俺たちに心を許してくれるようになった
「プリシラ。アタシに持たせてくれた弁当、おいしかった」
「ふふっ。よかったです」
「またつくってくれ」
「もちろんです」
特にプリシラとは親友と呼べるほど仲良くなっていた。
休日はベオウルフも加えて三人で遊びに出かけることがもっぱらだった。
今日も彼女たち三人は公園に遊びに行くという。
「アッシュさま。行ってまいります」
「ああ。行ってらっしゃい」
「……」
ベオウルフが無言で俺を上目遣いで見ている。
なにか言いたげだ。
そんなに見つめられるとむずかゆくなる。
「ベオウルフ……?」
「アッシュお兄さん、さみしそうですね」
「えっ!?」
思いがけぬことを言われて俺は変な声を出してしまう。
別にさみしいことなんてないんだが……。
むしろうれしいくらいだ。プリシラたちが仲良しで。
「すみません、アッシュお兄さん。プリシラを横取りしてしまって」
横取りされてたとは思ってないんだがな……。
最近俺とプリシラがいっしょにいる時間が減ったのは事実だが。
「はわわ、申し訳ありませんっ。わたしはアッシュさまのメイド。昼夜を問わずおそばにいるべきだったのを忘れていましたっ」
「そこまでしなくていいさ。それよりも、せっかくできた友達と思う存分遊ぶほうが大切だ」
「は、はいっ」
「……」
今度はユリエルが俺とプリシラを交互に見ている。
「ベオウルフから聞いたんだが、お前たち、将来結婚するんだってな」
「なっ!?」
またすっとんきょうな声を出してしまった。
「てへへ」
プリシラは目を細めてしあわせそうな表情をしている。
「ちなみにボクは三番目のお嫁さんで結構ですので」
「みんなでアッシュさまのお嫁さんになりましょうねっ」
「アタシにはよくわからないんだが、結婚ってなにするんだ?」




