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74-6

「しかし、さすがのワシも驚いたのじゃ。アッシュめ、夜中に知らない娘を部屋に連れ込んでいたのじゃからな」

「えっと、精霊界っていう別世界の人なんですよね。ユリエルさまは」

「あ、ああ……」

「精霊剣承がどうたらと、以前アッシュとスセリさまが話していましたけれど、その関係者ですの?」


 ユリエルがこちらの世界に来た翌日の昼、俺と彼女とスセリとマリア、プリシラで食卓を囲っていた。

 急きょ、ユリエルの歓迎会が開かれ、食卓にはプリシラとマリアのつくったごちそうがならんでいた。


「これ、食べていいのか……?」


 料理を指さし、おそるおそる尋ねるユリエル。

 マリアがくすりと笑う。


「あたりまえですわ。ユリエルのために振舞っているのですわよ」

「あ、ありがとう……」


 俺の前で見せていたとげとげしい態度とはうって変わって、今のユリエルは借りてきた猫みたいに緊張している。


 それも当然か。

 たぶん彼女は、初めて俺以外の人間と接しているのだから。

 大勢で食事をするのなんていうのも、きっと初めてだろう。


「事情はアッシュから聞きましたわ。どうぞよしなに、ユリエル」

「お友達になりましょうね。ユリエルさまっ」

「いいのか?」

「もちろんですわ」

「なのです」


 マリアとプリシラはすぐにユリエルを受け入れてくれた。

 ユリエルは赤く染めたほっぺたを指でかきながら言う。


「な、なら、友達になってくれ。でも、友達ってなにするのかアタシは知らないんだ」

「仲良くすればよいのですわ」

「いっしょに楽しいことをすればいいのです」


 この二人だから心配はいらないと最初から思っていた。

 ユリエルに友達ができてよかった。

 竜しかいないあの世界にひとりぼっちで戦い続けるなんて、あまりにも残酷だから。


「さあ、料理が冷めないうちに召し上がってくださいまし」


 マリアに促されて料理に手をつけるユリエル。

 シチューをスプーンですくって口に含む。


「あちっ」

「熱いから気をつけてくださいね。ユリエルさま」


 ユリエルはふーふーと吹いて冷ましてから、あらためてシチューを口に入れた。


「どうですか? そのシチュー、わたしがつくったんです」

「おいしい」


 こぼれ落ちそうなくらい目を見開く。


「すごくおいしい。こんな食べ物、はじめて食べた」

「おおげさですよー」

「わたくしのつくったスパゲティもどうぞご堪能あれ」


 ユリエルは次々と料理を口にしていった。

 その間、スセリは珍しくおとなしくしていた。

 ふだんなら主賓を差し置いてまっさきに料理に食らいつこうとするはずなのだが。


「ユリエルはあちらの世界ではふだん、なにをしていますの?」

「ブラックマターの狩りだ」

「では、余暇は?」

「そんなものはない。ブラックマターを狩るのはアタシの罰だからな」

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