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「ユリエルは何歳なんだ?」
「数えたことなんてない」
外見からするとプリシラと同じ12歳くらいに見える。
ただ、この精霊界に生まれたとなると、ふつうの年齢とは違うのかもしれない。
ユリエルは言っていた。ブラックマターは際限なく精霊界に現れる。
そして彼女はそれを狩る者。
彼女はいつから狩りを続けている?
彼女の狩りに終わりはあるのだろうか。
「精霊界が汚されないようにブラックマターを狩り続ける。それがアタシへの罰――人間たちの世界を滅ぼそうとした罰だ」
ユリエルが人間界を滅ぼそうとした……?
信じられない。
スセリのように底知れぬ野望を抱いているのならわかるが、彼女はそんなことをしでかそうとするようには見えない。
「アタシは四魔ユリエル」
――四魔。
それで合点がいった。
滅びた魔王の4つの断片――それが四魔。
俺たちは今まで2体の四魔と戦った。
アズキエル。
ベズエル。
そして俺の目の前にいるツノを生やした少女が――ユリエルらしい。
まさか彼女が四魔だなんて……。
アズキエルもベズエルも、理性を失った凶暴な悪魔だった。
しかし、俺の目の前にいる彼女は小さな少女。
気難しい性格をしているものの、いたって普通の女の子だ。
彼女が四魔だとにわかには信じられなかった。
「世界を滅ぼそうとした罰で、終わりのないブラックマター狩りをさせられている……?」
「そうだ」
「ユリエルはそれでいいのか?」
「アタシの意思は関係ない」
「魔王ロッシュローブのときの記憶はあるのか? そうじゃないとしたら、ユリエルに罪はないだろ?」
「もう放っておけ」
ぎろりとにらまれる。
これ以上、詮索はされたくないらしい。
でも、放っておけない。
部外者である俺が関わっていいのかわからないが、関わらずにはいられない。
魔王ロッシュローブとしての記憶や意識がないのだとしたら、ユリエルに罪はないのではないか。
あまりにも彼女がかわいそうだ。
終わりのない罰を負わされてるなんて。
「アタシには精霊竜さまがいる。だから不満はない」
不満がないのではなく、おそらくユリエルはそれしか知らないのだろう。
「おしゃべりは終わりだ。ブラックマターを狩るぞ」
丘陵を越えた先に海があった。
俺とユリエルは砂浜までやってきた。
太陽に照らされて熱くなった砂の熱が靴底越しに伝わってくる。
砂浜にその黒き怪物がいた。
甲羅から頭と四本の足を出した、カメの姿に似たブラックマターだ。
特徴的なのは、甲羅の上に載っている大砲のようなもの。
「気をつけろ。気配を察知されると砲撃されるぞ」
甲羅の砲台が空を向く。
そして鼓膜を震わす爆発音と共に大砲から砲弾が射出された。
砲弾は上空を飛んでいた竜に直撃し、竜は海に落ちた。




