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74-1

「ユリエルは何歳なんだ?」

「数えたことなんてない」


 外見からするとプリシラと同じ12歳くらいに見える。

 ただ、この精霊界に生まれたとなると、ふつうの年齢とは違うのかもしれない。


 ユリエルは言っていた。ブラックマターは際限なく精霊界に現れる。

 そして彼女はそれを狩る者。

 彼女はいつから狩りを続けている?

 彼女の狩りに終わりはあるのだろうか。


「精霊界が汚されないようにブラックマターを狩り続ける。それがアタシへの罰――人間たちの世界を滅ぼそうとした罰だ」


 ユリエルが人間界を滅ぼそうとした……?

 信じられない。

 スセリのように底知れぬ野望を抱いているのならわかるが、彼女はそんなことをしでかそうとするようには見えない。


「アタシは四魔ユリエル」


 ――四魔。

 それで合点がいった。


 滅びた魔王の4つの断片――それが四魔。

 俺たちは今まで2体の四魔と戦った。


 アズキエル。

 ベズエル。

 そして俺の目の前にいるツノを生やした少女が――ユリエルらしい。


 まさか彼女が四魔だなんて……。

 アズキエルもベズエルも、理性を失った凶暴な悪魔だった。


 しかし、俺の目の前にいる彼女は小さな少女。

 気難しい性格をしているものの、いたって普通の女の子だ。

 彼女が四魔だとにわかには信じられなかった。


「世界を滅ぼそうとした罰で、終わりのないブラックマター狩りをさせられている……?」

「そうだ」

「ユリエルはそれでいいのか?」

「アタシの意思は関係ない」

「魔王ロッシュローブのときの記憶はあるのか? そうじゃないとしたら、ユリエルに罪はないだろ?」

「もう放っておけ」


 ぎろりとにらまれる。

 これ以上、詮索はされたくないらしい。


 でも、放っておけない。

 部外者である俺が関わっていいのかわからないが、関わらずにはいられない。


 魔王ロッシュローブとしての記憶や意識がないのだとしたら、ユリエルに罪はないのではないか。

 あまりにも彼女がかわいそうだ。

 終わりのない罰を負わされてるなんて。


「アタシには精霊竜さまがいる。だから不満はない」


 不満がないのではなく、おそらくユリエルはそれしか知らないのだろう。


「おしゃべりは終わりだ。ブラックマターを狩るぞ」


 丘陵を越えた先に海があった。

 俺とユリエルは砂浜までやってきた。

 太陽に照らされて熱くなった砂の熱が靴底越しに伝わってくる。


 砂浜にその黒き怪物がいた。

 甲羅から頭と四本の足を出した、カメの姿に似たブラックマターだ。

 特徴的なのは、甲羅の上に載っている大砲のようなもの。


「気をつけろ。気配を察知されると砲撃されるぞ」


 甲羅の砲台が空を向く。

 そして鼓膜を震わす爆発音と共に大砲から砲弾が射出された。

 砲弾は上空を飛んでいた竜に直撃し、竜は海に落ちた。

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