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その後はみんな、リビングでのんびりとくつろいでいた。
「アッシュさま。これ、なんでしょう?」
プリシラが平べったい物体を持ってきた。
白と黒の四角いマスで区切られた正方形の板。
「物置にしまってあったのですが。キルステンさまの私物でしょうか」
「これはボードゲームの盤だな」
「ボードゲームですか。ということは、サイコロを振ってゴールを目指すのですね」
そういえば以前、セヴリーヌとボードゲームで遊んだっけな。
「これはそのボードゲームとは違う遊びさ」
「プリシラ。これは『シャトラ』というゲームですわ」
「白と黒のコマもいっしょにあったはずじゃ」
「あっ、そういえばありました」
プリシラは再び物置に戻って、白と黒のコマが入った箱を持ってきた。
俺とマリアは箱から出したコマを盤上に並べる。
コマは白と黒の陣営に分かれて対峙した。
「なんだか戦争でもするみたいですね」
「そのとおり。これは戦争を模したゲームだ」
白の陣営と黒の陣営が交互にコマを動かして戦い、相手のキングのコマを倒せば勝利。
それがこのシャトラというボードゲームである。
「遊んでみるか?」
「はいっ」
俺が白の陣営。
プリシラが黒の陣営。
「よく見ると、コマにもいろいろ種類がありますね」
「コマの種類によって進める範囲が違うんだ」
「わたくしが教えてさしあげますわ」
そういうわけで俺とプリシラの対戦が始まった。
俺とプリシラは交互に自分のコマを進めていく。
「ナイトのコマはナナメに進めますのよ」
「ナ、ナイトのコマはナナメ……。はいっ。おぼえましたっ」
マリアに指示されながらプリシラはコマを動かしている。
実質、俺とマリアの戦いだ。
しばらく経って……。
「アッシュ。大人げなくありませんこと?」
マリアに非難された。
戦況は俺が優勢。
「さすがアッシュさまです。ゲームでも強いんですねっ」
マリアが相手とはいえ、ここはプリシラに気持ちよく勝たせてあげるべきか。
今更ながら反省した。
それから俺はあからさますぎるほど加減をし、戦況はまたたく間にプリシラ優勢になった。
「ちょっとアッシュ。手加減は許しませんわよ」
「どっちだよ……」
俺はどうすればいいんだ……。
結局、ゲームはプリシラが俺のキングのコマを倒して勝者となった。
プリシラがぺこりとおじぎする。
「勝たせていただきありがとうございます、アッシュさま。やはりアッシュさまはおやさしいですね」
「けっこう難しいだろ」
「は、はい。わたしにはちょっと難しかったです……」
シャトラは運の要素が絡まない、正真正銘の頭脳戦。
息抜きに遊ぶようなゲームではないのは確かだ。