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そして夕食の時間。
メインディッシュはハンバーグだった。
「ヴィットリオさま直伝のハンバーグですっ」
「わたくしとプリシラの自信作ですわ」
プリシラとマリアはえっへん、と胸を張っていた。
行儀も作法もあったものではなくハンバーグにかぶりつくスセリ。
「うまいのじゃ!」
あっというまに平らげてしまった。
「う、うれしいですけれど、もう少し味わってくださいまし」
「スセリさまらしいです。あはは……」
俺もハンバーグに手をつける。
ナイフで切ると、断面から肉汁がじわりとこぼれ出てくる。
ひと口大に切ったそれを口に含むと、肉のうまみと甘辛いソースの味わいが口の中に広がった。
「おいしい」
これを称賛しなければなにを称賛すればよいのか。
「これならヴィトリオさんにも勝てるかも」
「ほっ、本当ですか!? アッシュさまにほめられるなんて感激です!」
「あなたの将来の妻として当然ですわ」
ふぁさっとマリアが髪をかき上げた。
将来の妻になるのかは置いといて、こんなおいしい料理を毎日味わえるなら、マリアと結婚できる人はしあわせだろう。
スセリほどの勢いではないが、俺のハンバーグも気が付けば皿からなくなっていた。
「スープも飲んでみてください」
食べる順序が逆になったが、スプーンですくったスープを口に含む。
カボチャのスープだ。
「おいしいよ、プリシラ」
「えへへー」
プリシラはくすぐったそうにはにかんでいた。
「アッシュ。わたくしもほめなさい」
「ああ。さすがマリアだな」
プリシラとマリア、スセリと俺の四人は談笑して夕食を楽しく過ごした。
こんな日々がいつまでも続けばいい。そう思えた。
そして食後――。
「満腹なのじゃ」
満足げに腹をさするスセリ。
「さあ、スセリ。そろそろやるか」
「はぁー。しかたないのじゃ」
俺が促すと、スセリはしぶしぶ腰を上げた。
食事はプリシラとマリアが担当している。
俺とスセリだけなにもしないというも不公平だから、食事の後片付けをすることにしていたのだ。
井戸から汲んできた水で食器を洗う。
俺が水で洗い、それをスセリが拭いている。
「めんどうなのじゃ」
大きく口を開けてあくびをするスセリ。
プリシラとマリアは風呂に入っている。
食器洗いが終わるころには彼女たちも風呂から上がってくるだろう。
「アッシュよ。このあとワシと風呂に入って背中を流すのじゃぞ」
「一人で入れ」
「ご先祖さまを敬うのじゃ。乙女の裸を見たくないのか?」
「見たくない」
とてつもなくくだらない会話を交わしながら食器を洗っていた。