72-7
質素だが、銀色の鞘は美しい。
「アッシュ・ランフォード。剣を抜いてみるがいい」
グレイス陛下に促されて剣を手にする。
そして鞘から剣を少し抜いたそのとき、鞘の隙間から白い煙のようなものがこぼれ出てきた。
「えっ、なんですかこれ!」
プリシラが声を出す。
これは……、冷気だ。
鞘の隙間からでてきた白い煙は冷たかった。
鞘から完全に剣を抜く。
その長い刀身は白い冷気を帯びていた。
周囲の空気が冷えていくのを感じる。
「この剣の名はビフレスト。冷気を発する魔剣だ」
ビフレスト……。
「今回の褒美としてビフレストをお前にやろう」
「ありがとうございます」
「剣に刀身に触れてみるがいい。ビフレストに刃はないからケガはしない。安心しろ」
ビフレストの刀身に触れてみる。
ひんやりと冷たい。
グレイス陛下の言うとおり、剣でありながら刃が研がれておらず、刀身はただの金属の物体でしかなかった。
「武器にはなりませんけれど、夏には役立ちそうですわね」
「暑い日はこれを部屋に飾っておくといい」
「こんなものなくても魔法で冷やせるのじゃ」
冷気を発する魔法道具は少々値は張るものの、裕福な貴族なら普通に買えるものだ。
つまりこの剣、どこにでもあるありふれた装飾品なのだ。
「触れたものを凍てつかせる、という力を秘めていたりしませんか?」
「そんな力は無い」
「なにが魔剣じゃ。大層な言いかたしおって」
「はははは! バレてしまったか。だが、ビフレストはさる高名な魔術師が置いていったものだ。大事にしろよ」
そういうわけで俺たちはグレイス陛下から魔剣ビフレストを賜ったのであった。
プリシラ、マリア、スセリと俺の四人は『シア荘』に帰ってきた。
鞘に入った魔剣ビフレストをプリシラが壁に立て掛ける。
かなり目立つな……。
「廊下に飾ったほうがよろしくなくて?」
「そうだな。居間にあったらなんだか落ち着かないな」
「こんなガラクタ、倉庫に放り込んでおけばいいのじゃ」
「仮にも王さまから賜ったものをぞんざいに扱ったら無礼じゃないか?」
持て余した結果、マリアの言うとおり廊下に飾ることに決定したのであった。
「夏になったら鞘から抜きましょうね、アッシュさま」
とりあえず、夏の暑さには困らなくなった。
「アッシュさまのメイドとしてこのプリシラ、お客さまをお迎えしましたらまっさきにこの剣をお見せいたします。『英雄アッシュ・ランフォードが国王陛下から賜った伝説の聖剣』と!」
プリシラの目はきらきらと輝いていた。
だいぶ誇張が入っていないか……?
【読者の皆様へのお願い】
『小説家になろう』の機能
『ブックマークに追加』と☆での評価をしていただけるとうれしいです。
現時点で構いませんので
ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価をお願いいたします。
執筆活動の大きな励みになります。
よろしくお願いいたします。