72-5
ローブの男が消える。
また転移した。
ふっと視界が暗くなる。
上か!
俺がさっと飛び退くと、俺のいた一にレイブンが降ってきた。
「くらうがよい!」
スセリが光の剣で攻撃する。
レイブンはそれを避ける。
すかさず俺が追撃を加える。
だが、それもいなされてしまった。
手ごわい。
下手な冒険者や兵士では敵わない手練れだ。
そのうえ転移の魔法を使って常に不意打ちを狙ってくる。
「レイブン。この国を混乱させてどうするつもりだ」
「どうする、だと? それこそが我らの目的」
ローブから見えるレイブンの口がにやりと笑う。
「混沌こそ我らが望み。この世界を混沌に陥れ絶望で覆いつくす」
「弱者の考えじゃな」
スセリが一笑に付す。
「自らの道を切り開けぬ弱き者は、現状を覆してすべてを台無しにすることしか考えられぬのじゃ」
「混沌こそ美徳。滅びこそ至高」
レイブンが消える。
転移した。
来るなら来い。
レイブンが俺の左側面に出現した。
俺は振り向くと同時にレイブンのふところに向かって飛び込んだ。
そして魔法の刃をレイブンの心臓めがけて突き刺した。
「ぐはっ」
心臓を貫かれたレイブンはその場に崩れ落ちた。
「ば、ばかな……。なぜだ……」
うつぶせに倒れたレイブンは自分の手をまじまじと見ていた。
レイブンはさがしているのだ。さっきまで握っていたナイフを。
「これをさがしているのか?」
レイブンの武器であるナイフは俺が持っていた。
「ど、どうして貴様が……」
「召喚したんだ。『お前のナイフ』を『俺の手』に」
いちかばちかだったが、成功してよかった。
金属召喚でレイブンのナイフを俺の手に召喚する作戦。
これで俺はレイブンのナイフを奪うのに成功したのだった。
レイブンが口から赤黒い血を吐く。
致命傷だ。
間違いなくレイブンの命を奪った。
次の瞬間、驚くべきことが起きた。
レイブンの姿が灰色に変わったかと思うと、砂の城が波に飲まれるようにその姿が崩れ落ちたのだ。
死亡したレイブンは人間のかたちを失い、灰の山となった。
それと連鎖して、闘技場にいた他のローブの男たちやリザード、ガーゴイルもかたちを失い、灰の山となってしまった。
「このレイブンとやらがリーダーだったようじゃの」
「どうして灰になったんだ?」
「こやつらは生物ではない。偽りの命を与えられた人形だったのじゃ」
だから、偽りの命を奪われた途端、かたちを失ったのか。
突然敵が灰となって困惑していた兵士や騎士、冒険者たちだったが、自分たちが勝利したのがわかると歓声を上げた。
グレイス陛下も無事のようだ。
「アッシュちゃーん!」
赤髪の騎士、エレオノーラさんがやってくると俺に抱きついた。
「アッシュちゃんがやっつけてくれたんだねーっ」
「危ないところでしたが、なんとか」
「さっすがアタシの認めた男の子だよーっ。キスしてあげよっか?」
「いえ、結構です……」
「もーっ。遠慮することないのに」
「アッシュ!」
「アッシュさまーっ」
俺たちのもとにプリシラとマリア、ベオウルフが駆けつけてきた。
こうして俺たちはロッシュローブ教団との戦いに勝利したのだった。