72-3
「危ないところだったのじゃ」
「ありがとう、スセリ」
「アッシュよ。少々うかつではないか?」
「すまない」
本当に危ないところだった。
スセリが助けにきてくれなければ今頃俺はロッシュローブ教団の刺客に殺されていただろう。
だが、勝ち残った者たちがロッシュローブ教団である証拠がこれで手に入った。
決勝戦を行うまでもない。
このことをギルド長のキルステンさんに報告して、奴らを捕らえよう。
「それにしてもスセリ、どうして俺の危機にちょうどよく駆けつけてこれたんだ?」
「アッシュを後ろからこっそりつけていたからなのじゃ」
「えっ」
「おぬしはロッシュローブ教団が欲しがっておる魔書『オーレオール』を持っておるし、決勝戦を行う前に始末される可能性も高かったからの」
なるほど。俺は奴らを釣り出すためのエサにされたわけか。
結果的に助かったからよかったが……。
「さあ、このことをエトガー・キルステンに報告――」
そのときだった――ドカン! と大きな爆発音と共に建物が大きく揺れたのは。
続けて大勢の人たちの悲鳴が聞こえてくる。
まさか……!
俺とスセリは闘技場の舞台へと向かった。
すると、舞台の上にローブを着た男たちがいた。
そしてさらに、翼を失くした竜のような魔物が三体いた。
観客席にいる観客たちが我先にと逃げている。
闘技場は大混乱の状態だった。
ローブの男の一人が拡声の魔法が宿った筒を手にしてしゃべる。
「グレイス王よ、出てこい。さもなくば観客たちの命は無い」
貴賓席にはまだ王さまが残っている。
ロッシュローブ教団め、観客たちを人質に王さまを殺すつもりか。
兵士たちが舞台を包囲する。
ローブの男たちが竜の魔物に命令すると、魔物は口から炎を吐いた。
魔物の前に立っていた兵士が炎に焼かれ、あっけなく殺された。
動揺した他の兵士たちが後退する。
これでは近づけない。
「きさまらがロッシュローブ教団か」
王さま――グレイス陛下が舞台に上がった。
護衛していた近衛兵たちを置いて、一人でローブの男たちの前へと進む。
「私がグレイス王だ」
ローブの男の一人が手にナイフを持つ。
その切っ先をグレイス陛下に向ける。
「グレイス王。その命、もらい受ける」
ローブの男がナイフを構えたままグレイス陛下へと走る。
その手に持ったナイフがグレイス陛下の喉を貫こうとした――瞬間、金属音がしてナイフが弾かれた。
「我が命、安くはないぞ」
グレイス陛下は懐から抜いた短剣で防御したのだった。
「兵士たちよ、臆するな! 邪教の一味を倒すのだ!」
王さまの勇敢な行動により、兵士たちは声を上げて竜の魔物に突撃していった。