72-2
これで決勝は俺とロッシュローブ教団で確定した。
「アッシュお兄さん、やっぱり強いですね」
ベオウルフが会いにきてくれた。
「ボク、アッシュお兄さんのこと尊敬してます」
「俺なんか尊敬してもいいことないぞ」
「いいえ。ボクにとって一番の人がアッシュお兄さんです。……あっ、いえ、やっぱり師匠が一番です。アッシュお兄さんはその次でいいですか……?」
「あ、ああ……」
照れくさくなった俺は頬をかいた。
恥ずかしいが、悪い気分ではない。
むしろうれしい。誰かに尊敬されるなんて。
「アッシュお兄さんならきっと優勝できます。ボク、応援してますから」
ロッシュローブ教団が王族に近づくのを阻止するため、優勝しなければならない。
緊張はしていない。
強い使命感が俺の中にあった。
「それにしてもさっきの対戦相手……」
ベオウルフが独り言のようにつぶやく。
「ふつうの人間とは違った感じだった。あんな人、初めてだった……」
「ベオウルフ?」
「――あ、いえ、なんでもありません。決勝戦、がんばってください」
決勝までしばらく時間がある。
俺はロッシュローブ教団が動きを見せていないか闘技場を見て回ることにした。
……それがうかつだった。
ひとけのない廊下を歩いていたら、思いがけぬ人物と出くわしたのだ。
「レイブン……」
ローブをまとった男。
さっき俺と戦った、ロッシュローブ教団と思わしき人物、レイブンだった。
レイブンは行く手を阻むように俺の前に立っている。
背後に気配を感じて振り返る。
そこにはレイブンと同じ格好をした男がいて、退路を経っていた。
「お前にはここで消えてもらう」
レイブンの袖からするりとナイフが出てくる。
その武器を手に、俺に攻撃を仕掛けてきた。
「障壁よ!」
俺は魔法で応戦する。
魔力でできた薄い障壁を正面に張り、レイブンの接近を阻んだ。
すかさず背後を向く。
もう一人の男も手にナイフを持って俺に攻撃を仕掛けてきていた。
「吹き飛べ!」
突風の魔法で男を吹き飛ばす。
木の葉のように宙を舞って飛んでいった男は、受け身を取って着地した。
闇討ちか。
決勝戦をするまでもなくケリをつけるつもりだ。
レイブンが相殺の魔法で障壁を打ち消す。
瞬時にして接近してきて、ナイフの間合いに入る。
下からナイフを振り上げる。
俺はそれをすれすれで回避する。
続けざまにもう一人の男が攻撃してくる。
回避できる態勢ではなかった俺は防護の魔法で盾をつくり、ナイフを弾いた。
単独行動をするべきではなかった。
今更ながら後悔していた。
どれだけ実力がある者でも、数の差を覆すのは容易ではない。
一介の冒険者にすぎない俺が殺しの熟練者二人を相手に勝てるかというと――否だ。
「そこまでなのじゃ!」
そのとき、聞きなれた少女の声が響き渡った。
レイブンともう一人の男がぴたりと動きを止める。
「スセリ!」
俺たちの前に現れたのはスセリだった。
助けがやってきたと知るや、レイブンともう一人の男は即座に俺たちの前から去っていった。