7-7
スセリにそう問われて俺は言葉に詰まった。
このまま冒険者として大陸を放浪する生活を続けるのか……。
俺はランフォード家を追放された身。
しかも、半ば自棄になって出ていったから、先のことなどまったく考えていなかった。
冒険者になったのも、単に生活費を稼ぐため。
「……定住する場所を見つけなくちゃな」
「で、プリシラと二人で暮らすのかの」
「……いや」
スセリの言いたいことはわかる。
本人の意思はともかく、プリシラはもうランフォード家のメイドではない。俺との主従関係もとうになくなっている。
プリシラは、元は奴隷の身。
ランフォード家はそんな彼女を『買った』のだ。
ランフォード家を追放された今、彼女を縛る鎖は断たれた。
「プリシラには自由に生きる権利があるんだよな」
「まぁ、どうせ本人は『アッシュさまのおそばにいます』と言うじゃろうがの」
それは本当に彼女のためになるのだろうか。
「アッシュ。おぬしとプリシラはこれから外の世界に触れていく。その過程で己が真になにをしたいか、いつか見つかるじゃろう」
プリシラのやりたいこと。
俺のやりたいこと。
それはきっと別々のことだろう。
俺たちの人生はこれから新たに始まる。
そして見つけていくのだ。
歩むべき道を。
「じゃがのう、アッシュ。おぬしは平凡な道など歩めぬと覚悟せい」
スセリがにやりと笑う。
「おぬしはワシと出会った。『稀代の魔術師』にして万能の魔書『オーレオール』を創りしワシに。ワシと『オーレオール』の力があれば、一国の主になるのも夢ではないのじゃ」
魔書『オーレオール』を俺に手渡す。
「その魔書を手にして『従え』と唱えれば諸侯はおぬしにひれ伏し、『滅べ』とつぶやけば一つの国はまたたく間に瓦礫の山と化す。『いでよ』と叫べば荒野に草木が芽吹くのじゃ」
「俺はそんなの望んでいない」
「おぬしはそうでもワシはどうかの?」
なに……?
赤々と燃える炎に照らされて陰影を濃くするスセリの笑み。
「ワシがなぜ『オーレオール』を創ったか考えたことはないのか?」
その笑みに俺はぞっとする。
「ワシには野望がある。凡百の徒には成しえぬ野望が」
俺はこのとき、初めてこの少女に恐れを抱いた。
恐怖とは違う。
危うさを感じた――と言い換えるべきか。
「知りたいかの。この『稀代の魔術師』の野望を」
ぐい、と顔を近づけてくる。
鼻と鼻が触れ合うくらいに。
俺はうなずくことも首を横に振ることもできなかった。
揺らめく炎を映す瞳に見つめられて動けなかった。
「まあ、今は日銭を稼ぐのに明け暮れるがよかろうなのじゃ」
彼女の恐れや危うさはなりをひそめ、俺の知っているスセリに戻った。
ふわぁー。
スセリは大きく伸びをしながらあくびをする。
「ワシも寝るかの。起こさなくてもよいぞ。好きなだけ寝て勝手に起きるからの」
「いやいや、お前も火の番をするんだぞ。プリシラの次だ」
「おやすみなのじゃ」
「お、おい、スセリ!」
スセリは俺を無視して実体化を解き、『オーレオール』に戻ってしまった。
呆れるほど自由奔放なヤツだ……。
俺は思わずため息をついてしまった。
こんなヤツだ。どうせ『野望』なんてのも大したことないものだろう。
懐中時計に目をやる。
まだ火の番を交代するには時間がある。
時間が来るまで小説でも読もう。
「アッシュさまぁ……」
プリシラが寝言を言った。
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