72-1
左腕につけた防具めがけて剣を振る。
この大会は殺し合いではない。
頭部や手足につけた防具に木剣が命中すればそれで勝利だ。
木剣が命中しようとしたその瞬間、レイブンの姿がこつ然と消えた。
俺はとっさに背後を振り返ると当時に飛び退く。
いつの間にか背後にまわっていたレイブンの剣が身体をかすめた。
やはりそうだ。
観戦していた前の試合でもそうだった。
対戦相手が攻撃しようとした瞬間、レイブンは一瞬にして姿を消し、転移魔法を使ったかのように背後にまわっていたのだ。
レイブンと似た格好をした他の選手も同じ方法でスセリやベオウルフ、エレオノーラさんを負かしていた。
みんなの戦いを観ていなかったら俺も敗北していただろう。
「お前、魔法を使ったのか」
問いかけるも、レイブンは答えたない。
ただ無言でたたずんでいる。
不気味だ。
魔法は禁じられている。
もし使用したら失格だが、審判はその判定を下していない。
実際、俺もレイブンから魔力は感じなかった。
俺は再び攻撃する。
そしてやはり、レイブンは瞬時にして姿を消し、今度は左側面にまわっていた。
回避――間に合わない。
剣で防御する。
木剣の刀身と刀身がぶつかり、乾いた音を立てる。
レイブンが攻め立ててくる。
すばやい連続攻撃を俺はいなす。
攻撃の隙間を見計らって反撃をくらわすも、やはり攻撃が当たる寸前でレイブンは姿を消失させて別方向に現れるのだった。
たしかにこれでは無敵だ。
レイブンと、勝ち残った他の仲間らしき連中もただの人間ではない。
間違いなくロッシュローブ教団だ。
確証はないが確信した。
彼らを優勝させて、王さまに近づけさせてはならない。
俺が勝ち残らなくては。
俺は覚悟を決めて攻撃を繰り出した。
わざと隙をつくった大振りの攻撃。
当然、レイブンはそれを回避する。
そして俺は予測した――ヤツは一番防御の薄い方向から攻撃を仕掛けてくると。
俺はすかさず身体をひねり、レイブンが出現してくる場所を予測して剣を振った。
正面から姿を消したレイブンが左方向から再び出現する。
それと同時に俺の剣がレイブンの右腕につけた防具を叩いた。
「そこまで! 勝者、アッシュ・ランフォード!」
レイブンの動きが止まった。
弾ける油のように沸き起こる歓声。
無敵と思われた相手を倒したことで闘技場は大盛り上がりだった。
「ロッシュローブ教団。お前たちの好きにはさせない」
しかし、レイブンは言葉を返さず、背を向けて舞台から去ってしまった。
その次はレイブンの仲間同士の戦いだった。
戦いはあっという間に終わった。
仲間の片方が戦いもせずに舞台から降りたのだ。