71-4
「やるねー、アッシュちゃん」
赤髪の女騎士、エレオノーラさんが俺たちの前に現れた。
「相手をすっ転ばせて勝つなんて、冒険者らしい泥臭い戦い方じゃん」
「今さらですけど、あれって反則じゃなかったんでしょうか」
「ぜんぜんアリアリ。いや、知らないけど」
「勝てばいいのじゃ」
「スセリちゃんの言うとおりっ」
エレオノーラさんはごきげんに笑った。
本当にいつも陽気だな。この人は。
……酔っぱらっていないよな?
「もう少しでアタシの試合だから、ちゃんと見てよね」
「はい。応援してます」
「勝利の美酒、用意しておいてね」
「お酒はさすがにダメかと……」
それから時間が経ってエレオノーラさんの試合が始まった。
さっきまで舞台で戦っていた俺たちは今、観客席からそれを見下ろしている。
ここからだと舞台が遠くてエレオノーラさんの顔がよく見えない。
「がんばってくださーい、エレオノーラさまー」
プリシラの声援も届いていないだろう。
エレオノーラさんは観客席に向かって手を振っている。
対戦相手が舞台に上がってきた。
筋肉隆々とした屈強な大男だ。
勝てるのだろうか。
審判がエレオノーラさんに拡声器の筒を手渡す。
「みんなー、アタシを応援してねーっ」
続いて大男の番。
「徹底的にぶっつぶす!」
野蛮だ。
拡声器が審判の手に戻ると、試合が開始された。
大男がエレオノーラさんめがけて突撃してくる。
エレオノーラさんはその場に立ったまま動かない。
大男は剣の間合いまで詰めると、左腕の防具めがけて剣を振った。
その瞬間、エレオノーラさんが飛翔した。
驚異の跳躍で大男の頭上を飛び越えた。
まるで蝶が翻るかのような華麗な動き。
瞬時にしてエレオノーラさんは大男の背後をとった。
大男が慌てて振り向くもすでに遅く、エレオノーラさんの剣が大男の左腕の防具を叩いた。
「そこまで! 勝者、エレオノーラ!」
観客席が沸いた。
大男ががっくりとひざをつく。
エレオノーラさんは彼に手を差し伸べた。
大男はその手を借りて立ち上がると、そのまま握手を交わした。
「強いですわね、エレオノーラさま」
「騎士団一の剣士を自称しているだけあるのじゃ」
「強いだけでなく、凛々しく華麗でした」
プリシラの言うとおり、ただ強いだけではなく、観客を楽しませる戦いをあえて演じていた。
さすがだな、エレオノーラさん。
普段のおちゃらけた言動からは想像できない。
「さて、控え室に戻る――」
「あっ、ベオ!」
次の試合になって現れた二人の参加者のうち、片方は俺たちの身内だった。
闘技場には場違いな小柄な少女。
ベオウルフだった。