71-3
手当てしてもらえるのはありがたいが、その前に死ぬぞ!?
そもそものこの闘いのルールでは頭部と手足と胸に着けた防具に攻撃を当てれば勝ちなのだが、プリシラはそんなものお構いなしに俺を粉砕しにかかってきている。
プリシラの怒涛の攻勢。
それをいなすだけでせいいっぱい。
武器は刃の無い木剣だが、半獣の彼女の腕力でこれを叩きつけられたらタダでは済まない。
「ア、アッシュさまが悪いんですよ……。わたしだけを見てくださらないから」
「えっと、いろいろとすまなかった。だからもう少し加減してくれ」
「いいえ。アッシュさまは一度、痛い目を見ないとわかりませんっ。アッシュさまは女の子にやさしすぎるんです」
「やさしいのは悪いことなのか?」
「はい! 悪いです!」
断言されてしまった。
なにも言い返せない自分がなさけない。
「アッシュさまはわたしだけにやさしくしてくださればいいんですーっ!」
プリシラが木剣を振りかぶって突撃してきた。
俺はそれに対し――。
「ひゃんっ」
プリシラの直線状から軸をずらし、右足を少し前に出した。
びたーんっ!
その足にプリシラは自分の足を引っかけ、盛大に転んだ。
すまん、プリシラ。
コツンッ。
うつぶせに倒れるプリシラの防具に剣を軽く当てた。
「勝者、アッシュ・ランフォード!」
その後、控え室。
プリシラは恥ずかしそうにうつむきながら席に着いていた。
スセリとマリアがふしぎそうに彼女を見ている。
「アッシュさま。さっきはその、本音ではありませんので許してくださいっ。メイドにあるまじき発言でしたっ。わたし、闘技場の熱気にあてられてどうにかしていたんです……」
「聞かなかったことにするから、心配しないでくれ」
「アッシュとプリシラ、戦いの最中になにを話してましたの?」
「秘密です……」
「それにしてもプリシラよ。おぬし、鬼神のごとき荒ぶりようじゃったのう。日ごろのうっぷんを晴らしたのか?」
「わ、わたし、うっぷんなんて溜めていませんっ」
「そうかのう。アッシュの優柔不断ぶりにやきもきしていたのではないか?」
「そ、それは……。ないわけではありません」
マリアが俺の肩を指でつつく。
「アッシュ。あなた、プリシラは大切なメイドなのですから、ちゃんとやさしくしてあげなさいな」
「肝に銘じておく……」
「でも、アッシュの『一番』はわたくしですわよ?」
「えっ」
プリシラが横目で俺を見ている。
ぷくーっとほっぺたをふくらませて。
「アッシュさまの『一番』はわたしです」
と小声で言う。
「いーや、ワシじゃよ。『稀代の魔術師』たるワシは頂点以外は許さんのじゃ。凡百の者どもはおとなしくワシの後塵を拝するのじゃ」
なぜスセリはわざわざ二人を挑発するのか……。
というかこの言い争い、ちょっと前にもしたような。