71-2
しばらく時間が経って、出番が近づいてきた俺とプリシラはそれぞれ違った別室に案内された。
狭い部屋だ。
観客たちの歓声が聞こえてくる。
すごい熱狂だ。
まもなく俺はその熱狂と興奮の中に飛び込む、
緊張はなかった。
プリシラもさっきはああ言っていたが、おそらく本気で挑んではこないだろう。
俺は適当に戦って負け、それから本来の目的であるロッシュローブ教団さがしをはじめるつもりだった。
仮にプリシラが負けてくれたら彼女にその役目を託せばいい。
「アッシュ・ランフォード。出番です」
そうして俺は太陽の光が降り注ぐ闘技場の舞台へと出た。
円形の闘技場をぐるりと囲む観客席。
そこに押し込められた観客たちが歓声を上げている。
石で造られた正方形の舞台に上がる。
俺と対面するのはプリシラ。
プリシラは肩をぴんと立てて表情を引きつらせている。
ガチガチに緊張しているな……。
「それでは、アッシュ・ランフォード対プリシラの戦いとなります」
俺とプリシラの間に立つ司会者の声が闘技場に響き渡る。
拡声の魔法が宿った筒状の物体を手に持っている。
「戦いの前に、アッシュさん、一言どうぞ」
司会者に筒状の物体を手渡される。
思いがけぬできごとに俺は「えっ!?」と声を出してしまった。
「えっと、がんばります」
「それでは、プリシラちゃんも一言どうぞ」
筒状の物体を手渡されたプリシラ。
プリシラは大きく息を吸い込み――鼓膜を震わす大声でこう宣言した。
「わたしはアッシュさまのメイドですがこれからアッシュさまをボッコボコにしますーっ!」
闘技場が歓声で沸いた。
ぎろりと俺をにらみつけてくるプリシラ。
「ア、アッシュさま……。メイドにあるまじき行為をお許しください」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」
「たんこぶができたら、あとでしっかり手当ていたしますので」
にっこりと笑う。
逆に怖い。
「それでは――はじめっ!」
うろたえている間に戦いが始まってしまった。
「アッシュさまーっ! 浮気は許しませーんっ!」
叫びながら突撃してくるプリシラ。
振り下ろされる木剣の一撃を自分の木剣で受け止める。
「わたしだけを見てくださーいっ!」
プリシラは息もつかせぬ勢いで立て続けに攻撃してくる。
防御するのでせいいっぱいだ。
あっという間に俺は舞台の端まで追い詰められてしまった。
「アッシュさまーっ! わたしの想いを受け止めてくださーいっ!」
めいっぱい振りかぶった剣をプリシラは垂直に打ち下ろした。
こんなのが頭に落ちたら防具越しだろうと頭蓋骨が割れて死んでしまう。
俺はとっさに身体を横にずらし、攻撃を回避した。