71-1
闘技場内部にある、出場者たちの控室。
普段はパーティーを催すためにあるのだろうか、大勢が集まっても窮屈にならない広間だ。
俺とプリシラ、スセリ、マリアは広間に設けられた席に座って出番を待っていた。
「どきどきしますね、アッシュさま」
広間は出場者たちの話し声で賑わっている。
俺は不自然にならないよう、視線を巡らせて出場者たちを見ていく。
いかにも強そうな男もいるし、まるで場違いなやせた女性もいる。
誰がロッシュローブ教団なのか、今のところ判別はつかない。
「エレオノーラさんとベオは勝てますでしょうか」
「あの二人ならきっと勝ち進めるさ」
騎士のエレオノーラさんと前回優勝者の少年――じゃなかった、少女剣士ベオウルフは別室にいる。出場者が多いので部屋を二つに分けられたのだ。
「アッシュ。必ず勝ちますわよ」
「あ、ああ……」
俺たちの本来の目的――ロッシュローブ教団を見つけだす任務を忘れないでくれよ……。
口には出せなかったので目で語りかけたが、それがマリアに伝わったかは定かではない。
広間の扉が開き、兵士が入ってくる。
そして掲示板に大きな紙を貼りだした。
対戦表だ。
対戦表の下部を左から右に見て『アッシュ・ランフォード』の名前をさがしていく。
俺の相手は――。
「プリシラ!?」
「アッシュさま!?」
どういう偶然か、俺の対戦相手はまさかのプリシラだった。
「まいりましたー!」
突然プリシラが叫ぶ。
仰天する俺とスセリとマリア。
「わたしの負けですーっ」
「落ち着けプリシラ! まだ対戦は始まってすらいないぞ!」
「アッシュさまに剣を向けるなどできませんーっ」
「半獣のキミ、棄権するのかい?」
対戦表を貼った兵士が尋ねてくる。
「いえ、棄権はしません」
プリシラの代わりに俺が返事をした。
プリシラがぶんぶん首を横に振る。
「わ、わたし、棄権します! アッシュさまとは戦えません」
「本物の武器で殺し合うわけじゃない。いつもの稽古だと思えばいいんだ。大会のルールも、身体につけた防具に木剣を当てれば勝ちなんだから」
「で、ですが……」
「俺はプリシラと戦ってみたい。これまでの冒険でプリシラがどれほど強くなったのか試してみたいんだ」
そう説得するも、プリシラはなおも迷っている。
そこにスセリが割り込んでくる。
「よいではないか、プリシラ。日頃晴らせなかった鬱憤をここでぶつけてやるのじゃ」
「わ、わたし、アッシュさまに鬱憤なんてありません」
「本当か?」
にやりとほくそ笑んでプリシラを見つめるスセリ。
スセリは目をそらしながら、気まずそうにぽつりとつぶやく。
「……え、えっと、実は、ちょっとはあります」
あるのか……。
まさかの発言に俺は少し傷ついてしまった。
思い当たる節がないのだが……。
「ならばこの機会に存分に叩きのめしてやるのじゃ」
「わっ、わかりました。わたし、アッシュさまをボッコボコのボコボコボコにしますっ」
プリシラの目がきらきら輝いていた。
どんな鬱憤を抱えていたんだ、プリシラ……。